三重県鈴鹿市稲生地区の夢ある稲生まちづくり協議会(岩波正夫会長)は先月、地区内全世帯の約3860世帯を対象にした住民参加型在宅福祉サービスを実施する生活支援隊「稲生助け愛ネット」の活動をスタートした。
まちづくり協議会による生活支援サービスへの取り組みは市内初。同市議会9月定例議会の中で、片岡康樹健康福祉部長は「地域における『互助』『共助』の取り組みで、地域包括ケアシステムの構築の柱となる重要なものと認識している」と評価し、今後市のモデルケースとして体制構築に向けた取り組みに期待が高まる。
活動が始まり、約2カ月弱。これまでに8件の依頼に対応した。岩波会長(75)=同市野町南=は「活動を通じて新たな顔見知りが増えることで、地域のコミュニケーションが良くなってきたことを実感している」と話す。
活動拠点となる事務局は稲生公民館内に設置。生活支援隊のコーディネーターが仲介役となり、電球交換や買い物代行、ごみ出しなど利用会員の困りごとに対し、支援会員が低料金の有償で支援する仕組み。支援内容は現在28項目あり、庭の除草や枝切りなどは30分300円、市内病院や買い物の付き添い送迎は30分500円(ガソリン代は実費)―など。利用料金の約2割を運営費として納入し、残りの約8割は支援会員が受け取る。
現在、利用会員は70―90代の32人。支援会員は50―70代の24人。中には利用会員、支援会員を兼ねている人もいるという。そのほか、寄付金で支援する地元企業などの賛助会員が20人おり、少しずつ支援の輪は広がる。
コーディネーター8人のうち、1人は地元医院の協力で職員が参加しており、地域連携にも力を注ぐ。
さらに大きな特徴の一つは、地区内にある県立稲生高校有志が助け愛ネットの活動に合わせて「生活応援隊」を結成し、生徒約10人が準会員になり、ボランティア活動として参加していることだ。同校は以前から地区の夏祭りに参加したり、地元住民を講師にした出前授業を実施しており、地域との交流を深めてきた土壌がある。夏休みには生徒らも支援会員と一緒に除草作業に参加したり、自作のうちわを持参して高齢者宅を訪問した。
副隊長の2年生、和田真由紀さん(16)は「介護に興味があり参加を決めた。稲生地区の高齢者のためにいろんなことを手伝いたい」と意気込みを語る。担当の東爪波奈教諭(28)は「取り組みが全校生徒に広がって、地域の高齢者と関わっていけるようになれたらうれしい」と話す。
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24日、利用会員の中野久見子さん(72)=同市稲生塩屋=が依頼した市内病院への付き添い支援に同行した。
現在闘病中の中野さんは一人暮らし。月1回、治療のために入院する。「電話一本で快く来てもらえると、治療にも集中できる」と話し、「地域の人と信頼関係ができることで安心でき、気持ちが前向きになれる」と明るい笑顔を見せる。
この日は民生委員も務める支援会員の飯野光治さん(68)=同市野町西=が病院まで送り、入院が決まった中野さんをサポート。「利用者から感謝の気持ちをもらうことが、活動の励みになる」と話す。
飯野さんは民生委員として地域の協力の必要性を感じており、今回の活動には設立前の研究会から参加してきた。「継続していくためには支援会員をどう増やしていくかが課題。利用者の要望も多様化しており、プログラムにない項目に今後どう対応していくかも協議していく必要がある」と話す。
岩波会長は「毎日新しい問い合わせもあり、状況を見ながら運営を確立させていきたい。顔見知りが増えて、助け合える稲生地区になってもらうことが一番の理想」と話した。