伊勢湾台風60年-下- 伊勢湾ヘリポート、孤立懸念 周辺が浸水域、液状化の恐れも

【県の津波浸水想定で動けなくなるほどの浸水と予測されている伊勢湾ヘリポート周辺。黄色が浸水域、赤はさらに大きな被害が予想されるエリア】

海に面した航空拠点は災害時に機能するのか―。

三重県津市雲出鋼管町の津市伊勢湾ヘリポートは、防災上の航空拠点となる、給油施設を備えた県内唯一のヘリポートだ。が、県が示す南海トラフ地震による津波浸水想定で、周辺が最大0・3―1メートルの浸水域となっている。ヘリポート自体は開港時にかさ上げされているため、浸水域に含まれていないが、周囲が浸水すれば陸の孤島になる恐れがある。

一帯は埋め立て地のため、液状化の恐れも。外部からの出入りができなくなり、燃料など物資の供給が止まれば、県外からの航空支援を受け入れる基地としても機能するのは難しい。

浸水の危険性は津波だけでなく、台風時の高潮や強風による高波でも危惧されている。昨年9月の台風21号では、高波で関西空港の滑走路が数十センチ冠水。今月、関東を襲った台風15号では横浜ヘリポートの護岸が高波で崩れ、滑走路一面にがれきや流木、土砂が散乱した。格納庫内の消防ヘリコプターが浸水し、整備と修繕のため今も航行できない状態が続いている。

想定を上回る津波や高潮、高波が来れば伊勢湾ヘリポートも災害時には浸水する恐れが指摘されている。津地方気象台によると、台風によって発生する高潮は、太平洋のような広大な海に面した地域よりも湾内で生じた時の方が大きくなりやすい。伊勢湾台風で顕著だった高潮被害も、奥に行くほど狭くなる伊勢湾の地形的特徴に起因するという。

ドクターヘリを運用する三重大付属病院・救命救急センターの今井寛センター長は「騒音による住民への影響などを考えると代替地を探すのは難しいのだろうが、津波や大きな高潮、高波が来れば駐機するヘリは全て駄目になる可能性は高い」と危惧する。

ヘリが浸水しなくてもヘリポートの給油施設が地下にあるため、水が流れれば電気系統が駄目になり、給油できなくなる事態も想定される。横浜ヘリポートも台風15号で給油施設が浸水し、復旧作業中だ。ドクターヘリの給油施設は三重大付属病院と伊勢赤十字病院にも備わっているが、今井センター長は「停電も考えられる。非常電源はあるがドクターヘリの優先度は高くない」と指摘する。
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伊勢湾ヘリポートは平成5年10月に開港。設置者は津市で伊勢湾ヘリポート社に管理を委託している。県の防災ヘリ、県警ヘリ、ドクターヘリが駐機し、燃料を補給する航空拠点だ。海抜は6メートルで開港時に津市がかさ上げした。

同市の担当者は「複数の候補地から選ばれ、当時は今ほど津波への懸念がなかった」と話す。周辺はJFEエンジニアリング津製作所やカヤバ工業の三重工場などがある工場地帯のため、騒音問題をクリアできたのも一因とみられる。

県や県警は伊勢湾ヘリポートについて「かさ上げされているので浸水しない」としている。ただ、浸水した場合の想定はあるといい、県防災航空隊によると、鈴鹿市御薗町の「三重交通Gスポーツの杜鈴鹿」などが代替地として想定されている。

問題はヘリポート以外に給油施設を備えている箇所がないことだ。対策として、県は紀南地域など県内7カ所にヘリ用燃料の入った200リットルのドラム缶を59本備蓄。約5日分の燃料に相当するといい、災害時は使い切るまでに中部や関西の空港などから燃料を調達する方針。だが、災害時は被災地からの要請で燃料の取り合いになる状況も考えられ、確約はない。

一方、ヘリポートが使えなくなった際、浸水前にヘリの避難が間に合った場合の燃料補給先候補として考えられるのが自衛隊基地。ただ、県も県警も自衛隊基地と災害時の受け入れ協定などは結んでおらず、災害時にならなければ分からないという。

ヘリポートの移転などは、仮に津市や県が検討したとしても先の長い話だ。現実的な対策は何か。

政府が毎年秋に行う災害訓練で、空路搬送などヘリの運用計画を企画・担当する前橋赤十字病院(群馬県)集中治療・救急課の町田浩志副部長は「伊勢湾ヘリポートが使えない想定で机上訓練だけでもするべき。被災地にヘリを止められず、近隣県に止める想定の訓練もあるが、やらなければ答えは出ない」と指摘する。