三重県内で真珠養殖の最盛地の一つとされる志摩市の英虞湾で7月中旬、アコヤガイの大量死が発覚した。中でも稚貝の被害が最も多く、来年以降の真珠養殖への影響は避けられないとの見方が強い。一方、事態は回復傾向にあるとして、業者からは「生産意欲をそぐ形にならないよう、適切な発信を」といった声も上がっている。
県水産研究所によると、貝に真珠の核を入れる「挿核」の作業をしていた複数の養殖業者から7月中旬、貝ひもに当たる「外套膜(がいとうまく)」と呼ばれる組織が縮小していると連絡があった。これを受けて、志摩市や南伊勢町内の養殖業者にアンケートしたところ、回答のあった約8割からへい死を含む被害が寄せられた。
県水産研究所と県真珠養殖連絡協議会が8月中下旬に実施した2回目のアンケート調査は、県内252の養殖業者のうち48%に当たる122業者から回答。今季の核入れに使用された三年貝のうち全体の25%に当たる12万2千個に外套膜の萎縮が確認され、うち11万5千個がへい死した。来季の核入れに備えた二年貝も27%に当たる34万4千個に症状があり、うち30万個がへい死。死亡率は三年貝が24%、二年貝が23%で、共に平年の数字を上回った。
2年後の核入れに備えた稚貝については貝の大きさが1―3センチと小さいために萎縮は確認できないものの、全体の約70%に当たる167万7千個のへい死が確認された。
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県は13日、「飼育条件と漁場環境の影響の解析結果」を公表。一つの要因として、冬場の海水温が平年より高くなって貝の栄養消費が高まる一方、海中プランクトンが平年より少なく、栄養が行き届かなくなったとの見方を示した。
30年12月から今年3月までの湾内の平均海水温は15・8度で、過去15年の平均値(13・3度)と比べて最も高かった一方、今年4―6月までの貝の餌となる植物プランクトンの量を示すクロロフィル量は過去15年の平均値の中で3番目に低かった。
栄養消費が高いレベルにあった貝が、寒さを避けるために避寒漁場の密閉性の高いかごに移され、栄養不足に陥ったと分析。
また7月16日にプランクトンの量を示す数値が一時的に跳ね上がっているため、泥の巻き上げなどに伴う濁りの発生も指摘。貝のえらや外套膜に泥やごみが付着し、外套膜の萎縮やへい死に影響した可能性もあるとした。
外套膜の萎縮は業者間では「蛇落ち」と呼ばれ、冬場の水温が低いときに起こる現象とされてきた。今回のケースでは比較的暖かい時期の発症とされる。県は感染症などの可能性も捨てきれないとして、国立研究開発法人・水産研究教育機構増養殖研究所(南伊勢町)や三重大学に感染試験や遺伝子検査を依頼し、10月末をめどに結果を公表する。
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発症した貝全てが死に至るわけではなく、検体の中には外套膜を再生しようとした形跡が確認できるものもあったという。県水産研究所の栗山功主幹研究員(47)は「万が一のことは考えているが、現場では小康状態にあると聞いている。今後の対策のためにも情報交換を進めて原因究明に努めたい」と話した。
県は9日付で養殖業者を対象に相談窓口を設置。経営再建や稚貝購入に向けた業者への融資に掛かる利子を肩代わりする経済支援対策を10月1日から開始する。愛媛など全国でも同様の被害が広がっているため、稚貝の需要増を見越して来年1月から県栽培漁業センターで増産体制を確立させる方針。
79業者が加盟する立神真珠養殖漁業組合の森下文内組合長(72)は「県の支援策は心強くありがたいが生産現場に起こったことは現場で解決するのが基本」とし、「回復基調に乗る中で病気の可能性を指摘されると生産意欲をそぐ形になる。一過性と信じる業者もいるので、その可能性をつないでほしい」と話していた。