2019年9月15日(日)

▼金融庁の報告書、老後2千万円問題も影響しているのだろう。あすの敬老の日を前に、日本生命保険が実施したアンケート調査で、74・2%が退職後の生活に不安を感じていた。3割の富裕層に7割の貧困層というわけでもあるまいが、100歳以上が三重県内でも1040人。この10年で6割増えた。全国では平成年間で23倍。今の60歳の4人に1人が95歳まで生きるという金融庁の報告書の設定も、現実味を帯びてくる

▼「何歳まで働きたいか」の質問に45・9%が65歳以上。退職後の生活に備え、ためておきたい金額は平均2888万円というのが切ない

▼ニッセイ基礎研究所は「老後の生活費に対する不安への対処として、できるだけ長く働くことを希望する」と分析する。働きたくて働くのか、働きたくないが働かざるを得ないのか。どちらかで、高齢者の心のあり様はがらりと変わる

▼「定年制度は高齢者差別」と言ったのは元三重大学長の武村泰男氏。西洋哲学が専門で、欧州で定年制が廃止される傾向を承知しており、米国で1986年、年齢差別禁止法ができ、年齢を理由にした解雇や待遇ダウンは差別として禁じられていることを視野に置いていたのだろう

▼定年を前提にした延長や再雇用制度、能力開発、職業紹介など、日本が進めている高齢者の生きがいづくり、働き方改革はその大半が世界の先進国の中では人権問題として問われかねない

▼敬老の日が、余暇の活用などのために日にちが漂流する仕組みの中で埋没されていく。年を取るにつれ、何かにせき立てられる社会へと向かっていく。