伊勢新聞

2019年8月27日(火)

▼虫歯がある子どもの割合が、県は全年齢で全国平均を上回っている―。「学力テストの結果なら朗報だが」というのは本紙『まる見えリポート』の皮肉だが、両者には根源的な関係があるのかもしれない。かむ力の衰えが、脳の働きを鈍くすることはよく知られている

▼人類の歴史を脳と歯との関係だけで見れば、進化と退化が同時に進行した。火の使用が肉を食べやすくして脳に大量の栄養が送られる一方、かむ力が退化して咀嚼筋が頭から後退して頭の骨を開放。脳を大きくした

▼徳川300年でその傾向は顕著と言われる。保存されている将軍の頭蓋骨で、戦場を駆け巡った家康、秀忠のがっしりしたあごに比べ、十代以降はほっそりし、柔らかいものばかり食べていたことが分かる。この10年ほど、退化はさらに急という

▼かむことが脳を活性化させて運動、学習意欲を引き出し、記憶力向上や認知能力回復、肥満防止になるが、食生活の変化に伴う急激なあごの退化はかむ力を弱め、顔のバランスを崩して歯並びを悪くし虫歯ができやすくする。唾液も減り、歯の洗浄能力が失われる

▼県の子どもに虫歯が多いことについて、県健康づくり課は「保護者の意識」「菓子文化」をあげる。キャラメル、チョコレート、クッキー、ケーキなど、糖分を含んで口に残る菓子が虫歯菌の温床だが、伊勢志摩サミットの継承行事として鈴木英敬知事が成果を誇る菓子博以来、県内に「菓子文化」が定着する中で勇気ある発言といえよう

▼短期的学力テストの成績向上と、長期的学習能力の低下を同時に進行させていることになる。