伊勢新聞

2019年8月18日(日)

▼国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」への抗議の電話、ファクス、メールは5700件という。この数は、多いのかどうか

▼熊本県で平成15年、ハンセン病元患者の宿泊をホテルが拒否する事件があった。同県が差別事件として厳しく行政指導し、マスコミの非難がホテルに集中するたびに元患者の施設や団体などへ、誹謗・中傷の電話やファクスが殺到した。同県だけではない。県出身者が多い岡山県の長島愛生園でもファクスの束を見せられた。200枚・件と言っていた。全国13療養所だけでも大変な数になるが、同時送信かもしれぬ

▼昭和60年、日教組大会が旧津市で開かれ、全国からの右翼街宣車で市はごう音に包まれた。会場候補は二転三転し、県の旧文化センターへ。街宣車が県庁に突っ込んだり、連日抗議文を提出した

▼県警は高い柵で文化センターを包み、厳戒態勢で実施した。5700件はさて多いかどうか。連夜右翼の来訪を受けたことがある。「子どもはいるのか」と聞かれた。「かわいいか」「どこの幼稚園か」と続け「大事にしろ」

▼人はどんなことに震え上がるか、よく心得ている。不自由展への抗議では「ガソリン携行缶を持ってお邪魔する」。京都アニメを想起させようというのか。卑劣というしかない。事務局対応の限界として愛知県は県の自動応答電話以外を遮断。抗議電話の会場などへの拡散で出展を中止した

▼「来場者の生命・安全が第一」という。「お客へ不快感を与えぬのが第一」とした熊本・ホテルの言い分を連想させる。