2019年8月9日(金)

▼「棺をおおいて事定まる」という。「人のまさに死なんとするその言やよし」とも。退職県幹部をインタビューした本紙の3月恒例企画『お世話になりました』をおもしろく感じるのはそれらの故事に通じるものがあるからだろう

▼離任あいさつで県庁を訪れた駐名古屋韓国総領事館の鄭煥星総領事が日韓関係について「今ほど厳しくなったことはない。個人的にもさびしくてつらい」。年末で定年退職し「今後は一民間人として日韓交流に貢献したい」。その言やよし、か。今の日韓関係で公人がこう率直にはなかなか言えまい

▼「草の根の交流はこれからも大事。引き続きご尽力いただければと思う」と同調した鈴木英敬知事も「私も一人の政治家として(韓国側の主張は)相いれない部分がある」と前置きした。そう前置きしなければ言いにくいということだろう

▼実際、今の日韓関係は憂うつだ。レーザー照射問題や元徴用工問題など、両国に起きた不幸な問題に真摯に向き合うのは当然。水面下で解決する手も外交上はあるだろうし、互いに言いたいことを言い合ってこそ相手を理解し、真の友好が築かれるのも確かではあろう

▼しかし、政府はこの時期に韓国を輸出優遇国から除外する閣議決定をした。まるで局地戦から全面戦争への道を歩こうとしているかのようだ。トランプ米政権のミニチュア版を見る思いもする。米国世論と違い、中国も韓国も、そして日本も、単一世論一色に染まりやすいのがはなはだ心配だ

▼鄭総領事は伊勢の美しい景色を思い出に語った。聞き慣れた言葉に一服の清涼感を覚える。