伊勢新聞

2019年8月1日(木)

▼サスペンスドラマもどきだった鈴鹿市の解体作業員殺害事件は、妻の横山富士子被告に懲役15年の判決が津地裁で言い渡され、一つの山を越えた。実行犯と見られる妻の愛人は14年で先に確定。求刑はいずれも17年だから、裁判所が事実上の主犯、従犯を決めた格好である

▼妻が愛人と共謀して夫を殺す。サスペンスドラマとしては古典的なストーリーだが、夫が義理の息子の友人で21歳年下というのが「事実は小説よりも奇なり」で、主人公の男性が娘の友人と再婚という設定はあるが、逆はなかった

▼ドラマの最後は二通りに分かれる。共犯関係の二人が仲間割れをし、おおむね主犯格が従犯格を殺しにかかる。もう一通りは、互いに相手をかばい合って単独犯を主張。動かぬ証拠を見せつけられて泣き崩れる。前者は欲得がらみの犯行で、後者は一方の強い思いにもう一方が助勢を買って出る筋書き。複雑な構成が必要となり、大方は前者のパターンだ

▼鈴鹿市の事件は義理の息子と妻の母親もそれぞれの役割を務めて異常性を高めたが、裁判の進行は後者のかばい合いから一転して前者の仲間割れの様相となり、単独犯を主張していた愛人は妻も首を絞めたと供述。「洗脳されていた」などと語り、妻は自身の犯行を否定し、脇役を主張する

▼複雑怪奇な事件がどんどん陳腐化し、サスペンスドラマ通が序盤で予言した通りの展開。自明の理に見えながら、実際は実行犯が特定されていない闇を本紙は報じていた。ありきたりのドラマのような筋立ての陰に、ぞっとする人間模様が浮かび上がらぬでもない。