伊勢新聞

<まる見えリポート>高齢運転者の事故 割合増加で対策加速

【イベントを通じて運転習慣を確認する高齢者=鈴鹿市の鈴鹿サーキット交通教育センターで】

男女12人が死傷した4月の東京・池袋での交通事故をはじめ、全国で高齢運転者(65歳以上)による事故が問題視されている。政府は6月、交通安全緊急対策として高齢者向けの運転免許創設を表明。県内でも高齢運転者の事故防止を巡る動きが加速している。

県警交通企画課によると、県内で発生した高齢運転者を第一当事者とする人身事故件数の全体件数に対する割合は、平成26年の18・3%から30年の21・5%と約3%増加。今年5月末現在は全体の22・0%に当たる337件で、うち死亡事故は全体の半数を占める12件となった。

26―30年まで過去5年間の事故の特徴としては、出会い頭と追突、車両相互の事故がそれぞれ全体の3割近くを占めた。また法令違反別では、前方不注視と安全不確認が併せて全体の6割近くを占め、ハンドル・ブレーキの操作ミスが7・3%と続いた。

池袋の事故で問題となったアクセルとブレーキの踏み間違いに関する事故は、5月末現在で24件発生し、うち高齢運転者による事故は全体の約4割に当たる10件だった。過去5年間での踏み間違いによる死亡事故は6件で、全て高齢運転者によるものだった。

池袋での事故の影響を受けて、県内では高齢者による運転免許証の自主返納が急増。返納数は4月で538件、5月で732件となり、5月末現在で2980件に達した。

高齢運転者の事故防止対策の一環として、県警は1月、日本自動車販売協会連合会三重支部や県軽自動車協会など7機関と「高齢運転者等に対する先進安全自動車の普及啓発に関する協定」を締結。踏み間違いや動作反応低下に伴う事故対策として、「衝突被害軽減ブレーキ」や「ペダル踏み間違い時の加速抑制装置」といった先進安全技術を搭載した安全運転サポート車(サポカー)の普及啓発に向けて、啓発ポスター8万部を作成して配布した。

6月には、鈴鹿サーキット交通教育センター(鈴鹿市稲生町)の協力で、「緊急!高齢運転者ブレーキ体験セミナー」と題したイベントを初開催。地元の高齢者が実車走行し、各項目を4段階で評価した客観評価と自己評価を比べ、日ごろの運転習慣を確認した。

同センターによると、全体的に若い世代と比べて自己評価が高い傾向にあり、特に重大事故につながりやすい「優先関係にかかわらず、見通しの悪い交差点では減速する」「歩行者保護には十分配慮している」といった項目で客観評価と差が大きくなる傾向が見られたという。担当した出原大輔主幹は「経験から運転技術に自信がある方が多い。一方で、見えないものを予測する危険予測に関する項目で評価の差が大きく、注意が必要」と指摘する。

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県警では今後、県内の各自動車学校に協力を求め、同様のセミナーを拡大していく方針という。しかし、会場使用や人件費などのコストから費用が自己負担となることが今後の課題だ。

民間企業が積極的に高齢運転者対策を推進する動きもある。菰野町永井に本社を置く「ジャパンマテリアル」(田中久男社長)では今年から、希望する高齢社員を対象に安全運転教育参加制度を開始。菰野自動車学校など各拠点周辺の自動車学校に依頼し、費用を会社負担とする講習を開いた。同社総務課の担当者は「健康診断と同じで、それぞれが運転のクセを認識してもらい、安全運転につなげていけたら」と話した。

運転免許証の自主返納を巡っては、三重交通バスが運転経歴証明書の所持者らを対象に運賃半額サービスを開始した29年3月を境に、前年の3048件から6202件へと倍増した経緯がある。運転者各自の安全意識向上は大前提だが、受け皿となる環境作りも必要不可欠となる。

東京都は6月、アクセルとブレーキの踏み間違いを防止する装置の購入費用を助成する制度を創設する考えを明らかにした。また東京都檜原村や群馬県大泉町などサポカーの購入費用に補助金を助成する動きもある。

県くらし・交通安全課の西塚昌義交通安全班長はこうした取り組みについて、「現時点では各自治体の情報を収集している段階。いずれ何らかの形で対処していけたら」と話していた。