伊勢新聞

2019年6月5日(水)

▼川崎市の児童ら殺傷事件を巡り根本匠厚労相は会見で「安易に引きこもりと(事件の原因を)結び付けることは厳に慎むべき」。報道機関に向けられた発言の可能性もあるが、ともあれよく言ったと拍手を送りたくなる

▼18年前は、そうではなかった。大阪府池田市の大阪教育大付属池田小に侵入して児童8人を刺殺するなどした殺傷事件で、犯人は逮捕当初、精神障害者を装った。精神鑑定で否定されるまでは、政府は精神障害者を司法機関の監視下に置く制度改正に突き進んだ

▼不思議なのは偽証確定後も動きは止まらず『心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律』が成立したこと。触法精神障害者は刑期を終えた後も、新設の社会復帰調整官によって「医療観察」名目の監視対象となる

▼報道機関も政府に同調し、事件から10日後、全国精神障害者家族会連合会から実質抗議を受けている。障害者は世間からの強迫観念に襲われ、外出ができなくなるなど症状が悪化。再入院者や自殺者も出した

▼「反差別・人権研究所みえ」が関係者を招いた講演会では政府より報道被害が大きかったと指摘されている。根本厚労相は自らの過ちを戒め、報道機関にも注意を促した格好である

▼長男を刺殺した元農水事務次官も、川崎事件を引き合いに「周囲に迷惑が掛かる可能性」を動機の一つにあげているらしい。一方で「次に暴力を振るったら殺す」などのメモや発言も。きっかけを待っていたとも受け止められなくはない

▼「ひきこもり」がすべての元凶と決めつけているようでもある。