伊勢新聞

2019年5月1日(水)

▼「令和」が始まった。さて、どんな時代になるか。しばらくそんな話題が続くのだろう。いささか退屈な気がするが、過去を振り返り、未来を見通そうとすることは悪いことではない。節目にそれ一色になるのがこの国の形でもある

▼憲法の第一章が「天皇」であることが当時の為政者の苦心だというのは憲法学者の故奥平康弘の説。主権が天皇にあった大日本帝国憲法の様式を継承することで、権威の維持を図ったというのである。共同通信が「元号チーム」を編成したのが昨年の大型連休明け

▼十カ月にわたり夜討ち朝駆けを繰り返したかと思うとご苦労な話だが、官邸は「どこにも抜かせない」「事前報道があれば差し替える」と豪語していた。一部の人だけの密室で決められていいはずがないという問題意識からだと聞くと、なるほどといわざるを得ない

▼では、政府はなぜそこまで秘密にこだわったか。旧憲法は、元号は天皇が決めるとされた。規定だけでなく、新元号は天皇逝去が前提だった。情報漏れはもちろん、検討していること自体はばかられ、旧憲法の趣旨は踏襲された。生前譲位でも厳戒態勢が引かれたことに奥平説をちょっと思い出してみた

▼スクープに始まり、天皇陛下のビデオメッセージという異例続きで生前譲位は実現した。異常を正常の中にいかに収めるか、為政者は知恵を絞ったに違いない。意義をどう守かは譲位の一連の儀式をも象徴しているかもしれない

▼その中で安倍カラーを組み込み、国民がつかの間の熱狂を楽しむ。これもこの国の形として当面「令和」を歩んでいくのだろう。