伊勢新聞

2019年4月30日(火)

▼「平成」も今日で終わる。どんな30年かと問われると言葉に詰まる。「昭和は戦争の世紀」「平成は災害の世紀」と言われる。本紙連載の「みえ平成史」の一つ一つに思い入れはあるが、そういうことなら「旧宮川村の台風21号豪雨災害」か

▼平成16年9月29日、前日から降り続いた雨の被害は旧宮川村だけでなく全県に及んだ。津市の23号が川になり、車がぶかぷか浮かんで流れていく光景は初めて見た。いつやむと知れぬ雨音に恐怖を覚えたのも初めてだった。死者9人のうちの1人は社員の祖母だった。陸の孤島と化した被災地の惨状は人ごとではなかった

▼テレメーターの故障や避難勧告の遅れ。さまざまな問題の中で「過去に大きな災害がなかったことによる準備不足」も記事は指摘している。県有数の豪雨地帯にもかかわらず、確かに大きな災害はなかった。犠牲となった社員の祖母は、孫らの避難の勧めに「嫁いで50年。このくらいの雨はいくらもあった」と動かなかった

▼台風前の雨で地盤が緩むなど複数の気象条件が重なったという。そうには違いなかろうが、果たしてそれだけか。崖崩れは、地滑り対策をした箇所がひどかったと災害救助の青年団員が言った。車の対向通行ができるようになった道路の上部の山がそっくり谷底まで運ばれた

▼鈴木英敬知事が就任した直後の平成23年は紀伊半島大水害が発生し、県内の死者・行方不明者は3人。それだけに知事の思い入れは強いが、県内としては16年豪雨か平成最大である

▼原因・分析が当時変わらぬまま、平成とともに埋もれていく。