伊勢新聞

2019年4月24日(水)

▼県人権施策基本方針の第1次改定(平成18年)を策定する過程で、県人権施策審議会が白熱の議論になった一つに「さまざまな人権課題」にあげたアイヌ問題の表題をどうするかだった。県事務局は「アイヌの人びと」を提示したが、委員らは「アイヌ民族」を提案した

▼「アイヌ」はアイヌ語で「人間」を意味する。「アイヌの人びと」では重複となり、おためごかしの危惧がないかというのだ。国連が先住民族の権利を宣言する1年前である。アイヌ文化振興法で「アイヌの人々の民族としての誇りが尊重される社会の実現」を目指してはいたが、国は収奪された土地の原状回復や補償などが求められることを懸念し「先住民族」の表記を避けていた

▼県事務局は頑強に「アイヌの人びと」を主張し、採決に持ち込み、多数決で押し切った。当事者としてのアイヌ、その人権というより、国の動きを意識した行動であることが透けて見えた

▼第2次改定の平成27年に向けて環境は大きく変わった。国連の先住民族宣言に伴い、参院は「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」をし、「北海道ウタリ協会」と名称変更していた「北海道アイヌ協会」が21年、旧に復した。先住民族としての保障、権利を確立する法整備を求める活動が加速する

▼そしてアイヌ支援新法が成立し、「先住民族」が明記された。第2次改定は「アイヌ民族」という言葉をふんだんに使いながらも「アイヌの人びと」の表題を維持した。次の見直しは6年後。北海道の名づけ親、松浦武四郎記念館を擁する県として、動きは遅い。