▼『兵隊やくざ』は、第二次世界大戦の関東軍を舞台にした勝新太郎主演の大映(当時)映画。古参兵らに徹底的に痛めつけられる二等兵が、暴力で仕返しをしていく昭和40年の作品だが、古参兵のしごきはかつての軍隊そのものといわれた
▼殴る蹴る、バットや金づちでたたく、体毛に火をつける―映画さながらのしごきが防衛大学校学生舎で繰り広げられていた。ノート一冊を「ごめんなさい」の言葉で埋めつくさせたり、裸の下半身を掃除機で吸ったり―最近の陰湿ないじめ、虐待の手口もふんだんに取り入れられている
▼防衛大卒業式に出席した安倍晋三首相は、自衛隊が国民の9割から信頼されているとして自衛隊の明記など、憲法改正に改めて強い意欲を示した。災害救助での信頼は人後に落ちはしないが、統合幕僚長が憲法を語るのは適当でないとしながら「一自衛官としてありがたい」と言ったり三等空佐が野党議員を「非国民」とののしるなど、言動は必ずしも信頼できない
▼久居駐屯地でも指導として後輩に暴力を振るった事件があった。戦後75年、組織として軍隊体質を引き継いできたということか。学生寮ではかつて4年生は神様、1年生はゴミなどといわれた。わずかな寮体験しかないが、1年生にとって怖いのは2年生で、3年生は2年の指導ぶりを見るだけ。4年生は別格。1年生にとってはむしろ気さくな存在だった
▼全員寮生活という閉鎖された社会であしき伝統が強化されて、正しいこととしてまかり通るようになってきたか。幹部らの言動がその結果だとすれば分かりやすくはある。