伊勢新聞

2019年3月18日(月)

▼朝日町中3女子殺害事件の被害者家族が鈴木英敬知事へ訴えてから9カ月で見舞金などを定めた犯罪被害者等支援条例が成立した。知事への手紙が施策に結実した画期的な例として家族とともに喜びたい。残土条例制定方針と並び、県民の願いに応える、ある意味伊勢志摩サミット招致に匹敵する知事の功績ではないか

▼条例はプライバシーの侵害、中傷などの2次被害対策や従来の住居に住めなくなった被害者に対し県営住宅の優先提供も定めた。加害者家族の苦悩とも重なる。名古屋で犯罪加害者家族支援のシンポジウムが開かれた。主催者によると、東海地方の相談件数は県が静岡とともに24件。岐阜の22件、愛知の13件と続く

▼知事は条例制定に伴い朝日町事件の被害者の父親と面談し「職員が一丸となって取り組んだ。これからもしっかり寄り添いたい」。労を多とするが、全国的には後発で事件発生から6年を経過。事件3年後の改定県人権施策基本方針、その翌年の行動プランにも「犯罪被害者等」については経済的困窮など被害実態を数多くあげるが、救済策は十年一日の啓発、相談体制の充実だけ

▼「刑を終えた人・保護観察中の人等」は性的マイノリティや貧困などとともに「さまざまな人権課題」の中に十把ひとからげで扱われている。加害者家族はない。知事の最重点公約の「災害と人権」も十把ひとからげの一つだから、知事と職員、県の方針との間には大きな溝があるのかもしれない

▼知事への直訴で県民の願いが実現する政治は、幸福実感日本一とは似て非なると言わざるを得まい。