南海トラフ巨大地震などに備え、三重県南部の東紀州地域では、各市町で避難所運営マニュアルの作成が進んでいる。各地域に合ったマニュアル作りに取り組む一方で、一般の避難所での生活が困難な要配慮者を受け入れる「福祉避難所」の運営マニュアルの作成が進んでいない市町も多い。災害時には障害者や高齢者、けが人などさまざまな事情を抱えた人も避難するため、作成に向けた早急な取り組みが求められる。
福祉避難所は、一般の避難所で生活することが困難な高齢者や障害者、乳幼児、妊産婦などを受け入れる2次避難所。
県によると、一般の避難所運営マニュアルは県内29市町のうち、21市町が独自のマニュアルを作成し、8市町が県のマニュアルを使用。一方で、福祉避難所は県内に373カ所あるが、役割や担当、運営方法などが定められた福祉避難所運営マニュアルを作成している避難所は平成30年3月時点で、181カ所にとどまっている。
県内で先進的に福祉避難所運営マニュアルの作成に取り組んでいるのが熊野市。平成24年に市内3カ所の高齢者施設を福祉避難所とする協定を結んだ。その上で、要配慮者を受け入れるための運営体制が必要と考え、施設に応じたマニュアル作成に取り組むことにした。
27年度に特別養護老人ホーム「たちばな園」(同市有馬町)で県内初の福祉避難所運営マニュアルを作成。現在は同市内3施設で完成しており、4カ所目は来年度作成予定だ。
同園でのマニュアル作りは三重大や中部電力、県・市などが参加。9回のワークショップを実施し、「被災者管理班」や「衛生班」など6班に分かれて役割を検討。マニュアル完成後は避難訓練も実施した。
同園の事務長としてマニュアルの作成に取り組んだ「たちばな園あすか」(同市飛鳥町)の和田勇紀施設長(42)は、施設独自のマニュアルを作る上で「支援者の人数の変更が一番の改善点であり、ワークショップの中で(参加者に)強くお願いしたこと」と振り返る。
国のガイドラインでは、要配慮者10人に対して、支援員は1人。だが、同園のマニュアルは6人に対して1人となっている。
和田施設長は「1人の支援者が初めて会う何十人もの要配慮者を、夜中も含めて一日中介助し続けるのは困難」とし、ワークショップを進める中で、「職員や支援員が24時間でやるべきことを紙におこして説明し、変更を納得してもらった」と言う。また「マニュアルの作成には、福祉避難所の開設後をイメージできる人に参加してもらうことが必要」とも語る。
一方で、福祉避難所を運営するに当たり、現場の職員の数が少ないなど課題もある。マニュアル作りに参加した「市身体障害者(児)福祉連合会」会長で、自身も車椅子を使う森岡寛佳さん(41)は「高齢者施設は普段から人手不足なので、職員が通常の業務をこなすのに精いっぱい。要配慮者の家族も一緒に過ごすとなると、施設に負担がかかってしまう」と語る。その上で「協力してもらうには顔の見える関係が大事。普段から積極的に地区の訓練に参加してほしい」と話している。
マニュアルの作成に携わる市防災対策推進課の山本方秀課長(58)は「マニュアルでは1つの施設で30―40人を受け入れる予定だが、訓練では6人を受け入れるのが精いっぱいだった」と話し、「現場の職員が少ない中で、どのようにして受け入れ体制を整えていくかが今後の課題」と話す。
マニュアル作りを指導する三重大の磯和勅子(ときこ)教授(47)(老年看護学)は「災害時に看護師や介護士などの資格を持つ支援者をどこから派遣するのかといった、支援の体制づくりが全国的にも整っていない。現地で急に支援者を探すのは困難」と指摘。「マニュアルを機能させるには、外部からの支援者が必要。施設や行政などが連携して、事前に支援者を派遣してもらえるシステムを構築する必要がある」と話している。