伊勢新聞

2019年3月7日(木)

▼首都圏から大量に運び込まれている建設残土の規制条例をめざす紀北町議会が、条例案を賛成3、反対4で否決した。気が変わったのではない。賛成派は「(厳しさに欠けるが)早く条例を作ってほしいという町民の声を最優先している」

▼「兵は拙速を尊ぶ」(孫子)。少々まずくても、すばやく行動して勝利を得ることが大切ということである。反対派は「搬入禁止項目を追加してほしい」。こちらは「勝兵は先づ勝ちて後戦ひを求め、敗兵は戦ひて後勝ちを求む」(同)か。勝てる状況を作ってから臨むのが王道ということだろう。ぎりぎりの中で腐心する姿が伝わってくる

▼残土条例を巡っては、県議会でも今回、十数回目になる質疑が交わされた。議会が条例制定の請願を採択したのは4年前。伊賀地域からだったが、県は現行法令で対応できると制定に動かなかった。その間に紀北地域では、視察した鈴木英敬知事に「再検討する」と言わせるほど、建設残土が積み上がってしまった

▼「条例制定による新たな規制が必要な状況ではない」と県当局が議会で答弁してわずか4カ月後のことだ。一見して驚がくした知事と、失政を認める事態は回避しようとする県当局との違いといえようか。再検討して制定しない選択もあるのかの問いに知事は言葉を濁し、大要こう言った

▼一度制定しないという結論を出しているのでそれを覆すだけの説明を組織として構築できるか―だと。うずたかく積み上がった残土や住民の不安以上に、県にはまず解決しなければならない問題があるということか。県庁の常識は県民の―。