2019年1月19日(土)

▼燕雀いずくんぞ鴻鵠の志を知らんや、という。出典は史記。小さな鳥にどうして大きな鳥の心が分かろうかの意味で、小人物は大人物の考えや志が分からないことの例え。鈴木英敬知事の3選出馬表明の報道で、ここまで遅れた理由がまるで分からなかった。語呂合わせ好きだから、阪神大震災の日に合わせたのかと思ったりしたのだから、どだいお話にならない

▼「初心」の一つが防災・減災対策で、もう一つが県の知名度や経済の向上という。3選で「今こそ初心を貫く」。頼もしさを別にして、これも語呂合わせかなという思いが頭をかすめた。「初心忘るべからず」は世阿弥の言葉。「初志貫徹」は、中国後漢を代表する詩人曹植の「初志を守らん」と、兄文帝の言葉とが組み合わさった造語

▼「初心」は「初志」と同義とされるが、世阿弥の意図は初心者の時の気持ちを指すと言われる。何もできないみっともなさや、痛感させられる未熟さである。世阿弥の『花鑑』には「是非の初心」「時々の初心」「老後の初心」の3つがあり、入門当初だけでなく、そこそこの名声を得た時や、大家とされてからも、みっともなさ、未熟を痛感した気持ちを忘れるなというのである

▼鈴木知事は「全国一給与の安い知事」の公約を2期目に返上した理由について「政治家一年生に見合った処遇でスタートし、成果も出てきた」。3選出馬表明では、さらに伊勢志摩サミットなどの実績を強調し「道半ばの諸課題」に挑む。熟練知事と区別しにくくなった

▼初心と初志―知事にとっては、もう同じになっているのかもしれない。