伊勢新聞

2019年1月12日(土)

▼リオデジャネイロ五輪後の吉田沙保里さんをテレビで見る機会が増えた。持ち前の明るさがさらに発揮されていることにどこかふっきれた様子を感じていたので、引退表明は意外ではなかった。会見もまた、深刻さはなかった

▼本人も、東京五輪を控えて「本気になったらという思いはあったけど、気持ちの部分が追いつかない状態で、やりつくしたという思いが強かった」。リオ五輪直後に「次が東京でなければ引退していた」と語ってから二年。徐々に変化してきたということだろう

▼父・栄勝氏の存在が、沙保里さんの選手生命全体に大きく関わっていたことは間違いあるまい。その死もまた、大きかったのだろう。リオ五輪の敗北につながり、リオ五輪後の進路も左右したのかもしれない。レスリングと父親とは、沙保里さんにとって一体のものだったのではないか。「やりつくした」と語る表情からは、ある種開放感も感じた

▼獲得した多くのメダルの中で、一番の印象を問われてリオ五輪の銀メダルをあげた。泣きながら登った二番目の表彰台で、それまでの「勝てて良かった」という気持ちから敗者の心理を思い、自身を成長させてくれたという。人生のターニングポイントのメダルとして、これからも見つめていくことになるのかもしれない

▼個人的には、優勝した大会で日本のファンへの言葉を促され「国民のみなさん」と語りかけたことが記憶に残る。スケールが大きかった。五輪三連覇、世界大会16連覇の輝かしい記録とともにレスリングそのものへの貢献度は大きい。心からお疲れさまと言いたい。