伊勢新聞

<みえの事件簿・下>亀山市文化財贈収賄事件 入札巡り住職に忖度

【職員の贈収賄事件を受けて関係証拠を押収する捜査員ら=10月、亀山市役所で】

三重県の亀山市指定文化財「松風山福泉寺楼門」(亀山市東町1丁目)の修理工事を巡る指名競争入札を巡る贈収賄事件。便宜を図った見返りに現金を受け取ったとして、加重収賄罪で起訴された嶋村明彦被告(64)は、国重要伝統的建造物群保存地区でもある関宿の景観保全などに寄与した同市の文化財保護の第一人者だった。

嶋村被告は平成29年6月29日、当時事業を指導監督する市文化振興局長として同工事の入札に立ち会い、知人の宮大工男性(64)にほかの入札参加業者の最低価格を教えて入札書を差し替えさせ、男性の代理業者に落札させた。その見返りとして、同7月11日に同寺付近の路上で男性から現金20万円を受け取ったとしている。

今月27日に津地裁で開かれた初公判で、嶋村被告は起訴内容を認め、検察側は懲役2年と追徴金20万円を求刑した。犯行動機を問われた嶋村被告は、「しっかり修理したいという住職の思いを重く受け止めていた。文化財としてしっかりした仕事を残したいという思いもあった」とし、想定と異なる入札結果に対する住職への忖度が主な動機だったことを明かした。

事件はなぜ起きたのか。江戸時代の建立とされる同楼門は平成8年に市の文化財指定を受けた。昭和6年を最後に大規模な修繕がされず、雨漏りなどの問題が発生していたことから、寺の住職が平成20年ごろ、当時市文化振興局まちなみ文化財室長をしていた嶋村被告に市への修理工事許可と、補助金交付の申請について相談に訪れたという。

同市では公共工事ではなく民間が発注者となる工事の場合、従来は発注者が施工業者を選ぶ随意契約の方式が採られていた。一方、今回の工事では市から支出される補助金の額が約1000万円と高額に上るため、嶋村被告は公平性を期すために、市の公共工事に準ずる形で指名競争入札の方法を提案したとしている。

便宜を図った宮大工の男性とは平成七年ごろ、別の文化財修理現場で知り合い、県内の文化財保護活動に関する研究会等で親交を深めたという。男性は過去に同寺庫裏の修繕を担当していた経緯から、工事を任せるよう嶋村被告に依頼。嶋村被告は技術への信頼から、別に交流のあった業者と共に男性を指名した。

嶋村被告は具体的な入札方法などを住職に指示し、入札当日も立会人として現場に立ち会ったという。結果を見た住職の顔色が変わった理由を男性に落札させたかったからだと考え、「魔が差して」入札の差し替えを提案。男性からの謝礼も一度は断ったが「強い思いを断り切れず」に受け取ったとし、「一瞬の気の迷いから信用を失墜させた」と法廷で謝罪した。

「民間が発注する補助事業に関するルールができていなかった」―。市は25日の会見で、補助事業に係る規則を改訂し、事前決裁の義務化や入札時に中立的立場の財務課職員が立ち会うことなどを盛り込む意向を明らかにした。また市は28日付で嶋村被告を懲戒免職とし、監督責任として市長の減給も決めた。

実績から嶋村被告に権限が集中し、他の職員が問題点を指摘できる状況になかった事も背景にあったとみられる。同市総合政策部の担当者は「公務員としてのモラル欠如も原因。コンプライアンスの見直しを検討していきたい」と話した。