三重県の紀北町と尾鷲市に県内外から掘削工事などで出た建設発生土などが大量に運び込まれている問題で、同町は残土の搬入を規制する「紀北町生活環境の保全に関する条例」案を来年3月議会に上程し、来年8月1日の施行を目指している。ただ、同町の条例では規制できない尾鷲市にも残土が搬入されており、両市町の議員や住民からは両市町や県を含む広域で問題に取り組む必要性を訴える声が上がっている。
県によると、建設発生土や、発生土にセメントなどを加えた改良土が約6年前から尾鷲市の尾鷲港や紀北町の長島港に船で荷揚げされている。地元の土砂搬入業者は港を使うため、港湾を管理する県に申請書を提出するが、成分表や運搬量を提出する義務はない。
しかし、漁協関係者らから不安視する声が上がったため、県尾鷲建設事務所は平成28年11月から業者に書類を提出するよう求めている。業者が任意で提出した書類によると、大阪府岸和田市などが発生元となる資料や、地質分析結果などが記載されている。
ただ、ダンプカーなどを使って陸路で土を搬入する場合、県に書類を提出する義務がないため、県の担当者は「すべての土砂搬入現場や搬入量を把握するのは難しい」と話す。
県や町によると、現在町内では、地元の2業者が残土を搬入。残土は同町東長島の田山坂、荷坂峠付近、三浦地区、熊野古道・一石(いっこく)峠など8カ所に積まれている。11月には新たに同町海山地区の水源地上流の尾鷲市南浦にも搬入されていることが分かり、土砂崩れや銚子川に土が流れることを懸念する声も上がっている。
一部の土が崩れ、水路に土が流れたこともある同町東長島田山地区では、今年5月に土の適切な管理を求める要望書を町に提出している。谷口房夫区長(67)は「大雨が降って田山川に土砂が流れると集落に逆流する恐れがある。町は施設管理者として適切な管理をしてもらいたい」と話す。
搬入業者によると、首都圏のインフラ工事などで出た年間約15万トンの残土を船で運んでいる。両市町は港から近く、船で大量の土砂が運べるため、陸路よりもコストが安いという。
業者は残土の搬入について取材に「水質検査と土壌検査は年に6回実施している。成分表はいつでも提出できる」と説明。住民が不安視する土砂崩れについては「段差をつくり、崩れないように安全性を確保しているが、完成するまでに時間を要する」と話している。
来年8月施行を目指す「町生活環境の保全に関する条例」案では、大規模開発を予定する業者は事前に町に書類の提出を義務付けるほか、土地の埋め立ての構造基準などを明記するが、施行以前に土を搬入している場所については協議や届け出の必要がない。今後は指導に従わない場合の罰則も検討する。
しかし、市町単位での条例制定には限界がある。土砂搬入が町外の場合、町条例では規制できないため、尾上壽一町長は11日の町議会全員協議会で「われわれ県民を守ってもらえる条例を制定してほしいと県に働きかけていく」と述べた。
県議会では平成27年、県残土条例制定を求める請願が採択されたが、県は今年の9月議会で「県内全域において残土の処理などに関して直ちに条例制定による新たな規制が必要な状況ではないと考えている」と回答している。