新たな財源確保のため、三重県は本年度から特定の事業費に対してインターネット上で資金を募る「クラウドファンディング(CF)」を本格的に導入した。外見からは分かりにくい障害を周囲に知らせる「ヘルプマーク」のストラップ作成費など9事業で実施。施策をPRする効果が得られた一方で、事業によっては目標額を達成できなかった結果を受け、来年度の活用に尻込みする部局もある。
県ホームページ(HP)の財政情報の中に、ひっそりと「クラウドファンディングのご案内」というページがある。CFを活用する事業の紹介と目標金額、募集期間が並ぶ。1口の寄付単位は事業ごとに異なり、いずれもふるさと納税制度で税額控除が受けられる。
CFは個人や企業、団体がインターネットを介して、個人から少額の資金を調達する仕組み。自治体では平成25年に鎌倉市が初めて挑戦した。県では26年からジュニア選手らを表彰する「夢追人 吉田沙保里大賞」の実施費の募集を外部委託で始めた。
厳しい財政状況の中、新たな財源を確保するため、県は昨年度、県の施策でCFを活用するための指針を策定。寄付金は寄付を受けた部局の特定財源として取り扱うことを決め、本年度から吉田沙保里大賞以外の事業でも本格的に活用することとなった。
本年度にCFを導入した8事業のうち、7事業は目標額に達した。ヘルプマークのストラップ作成費は目標を37万4千円に設定したが、募集から2カ月足らずで目標額を達成。11月22日現在で56万5千円が集まり、来年3月末まで募集を続けている。
募集した県地域福祉課は当初、県の予算とCFで集まった資金を合わせ、ヘルプマーク1万個を作成する予定だった。目標を大きく上回る資金が集まったため、12月の補正予算案に新たにヘルプマーク千個分の作成費14万5千円を追加計上している。
同課の担当者は目標額以上の資金が集まっている理由を「(8事業の中で)最初に募集を始め、メディアで取り上げられることが多かったため」とみている。ヘルプマークを使いたいと思っている人や難病の子どもを持つ親からの寄付があったという。
自治体のクラウドファンディングは寄付者側からすると、自分の寄付した資金が県の施策の中で何に使われているのかが明確だ。行政側からすれば、ヘルプマークのように県のPRしたい施策を宣伝できる利点がある。ただ、集まらなければ事業は実施できない。
共感の得られやすい事業ほど目標額を達成しやすい傾向にある。野良猫の不妊去勢手術の費用を募るCFは目標額の180%超となる217万5千円が寄せられた。ダムカードの作成費や鉄道展の開催費を募るCFは愛好家などから寄付が集まった。
その一方で、県立美術館が8―10月に募集した若手作家の作品収集事業は目標額が169万8千円だったのに対し、集まったのは約5%の8万8千円で、さみしい結果となった。集まった資金で事業を進める方針だが、当初進めたかった内容には遠く及ばない。
県庁は来年度当初予算編成の時期。各部局からの予算要求を精査している段階だ。県財政課によると、来年度にCFを活用しようとしている事業は本年度に比べて増えていない。同課は財源確保の一環として来年度も引き続きCFの活用を促したい考えだ。「本年度は本格導入だったため注目を集めたが、来年度以降は県HPへの掲載だけで寄付を集めるのは難しい」と課題を見据える。