伊勢新聞

2018年11月22日(木)

▼独占禁止法に課徴金減免制度が設けられた時、日本人になじまないといわれたことが夢のようだ。自分が助かるために仲間を売るのは欧米でこそ効果があっても、わが日本では―みたいな話だったが、まったくの杞憂(きゆう)だった。そのせいか、司法取引の導入では、逆に仲間を陥れるために悪用されることが懸念された

▼日仏自動車グループのカリスマ経営者、カルロス・ゴーン日産会長の逮捕に威力を発揮したケースではどうだったか。西川広人社長は会見で、捜査に協力してきたことを明らかにし、一人に権力を集中させたことを反省するとともに「残念を通り越して強い怒り」と語り、「負の側面」とまで言い放った

▼コストキラーと呼ばれて2万人の社員を削減するなどして経営危機の日産をV字回復させた。そのおかげで現在がある西川社長の口を極める非難は、創業家に損害賠償を請求することになったスルガ銀行はじめ、前経営陣の責任を問うオリンパスや東芝などにも見られない苛烈さだ。人間関係が物を言う前近代的な日本型企業からの脱皮がみられるということだろう

▼司法取引制度の適用は2例目。1例目は、タイの発電所建設をめぐり、三菱日立パワーシステムズが自社の元役員らを内部告発して不正競争防止法違反(外国公務員への贈賄)へ追い込み、トカゲの尻尾切りと言われた

▼今回も仕組みは似ているが、対象はトカゲの頭である。「尻尾切り」の批判は招くまいが、このことわざは取り替えの利く部分を切り捨てて危機を脱する例え。人間社会では頭を取り替えて幕引きのケースも少なくない。