▼出発当日まで行き先がわからないドキドキの旅というのが、バス会社の企画ミステリーツアーのうたい文句。サスペンスドラマによく登場し、ツアーを舞台に危機一髪の物語が展開するが、現実のミステリーツアー運転手が運行中意識を失い、乗客らはあわやの死地に直面したというから、しゃれにならない
▼バス運転手の意識喪失事故は続いている。6月にも富山県南砺市の東海北陸自動車道で、観光バスの運転手が意識を失って、今回の紀北町の紀勢道と同様、気づいた乗客がハンドルを握り、止めた
▼くも膜下出血だった。労働時間は規定範囲内で「出発前の点呼でも体調に異常はなかった」というのがバス会社の話だが、12日間連続勤務だったという。年齢は54歳。何となく過密労働を連想させる。紀北町のケースは46歳。大型トラックの経験抱負で九年前からバス会社に勤務。病歴はなく、前日は休日だった。健康体の働き盛りが突然てんかん状態になったことになる
▼格安ツアーバスが過密労働で事故が続発したのを契機に長時間運行には控えの運転手が義務づけられたが、今回はあてはまらない。何を頼りにバスに乗ったらいいか、乗客の不安は募ろう。健康体だった吉田沙保里さんの父、栄勝さんは走行中にくも膜下出血を発症し、路肩に停車後意識を失い死亡した。知人も同じ症状に襲われて路肩に車を止め、タクシーを呼んで病院に向かい、九死に一生を得た。運転中の意識喪失は珍しくはない
▼過密労働に全責任を負わせた格安ツアーの結論と対策は正しかったか。検証の検証が求められる。