大観小観 2018年11月1日(木)

▼元徴用工に対する損害賠償を命じた韓国大法院(最高裁)の判決に河野太郎外相は「極めて遺憾」の談話を出した。「遺憾」は「残念、気の毒」(広辞苑)の意味だが、政治的には謝罪と非難の正反対の言葉として用いられる。外交的には「なされるべきではなかった」の見解表明として使われるが、真意が隠されている重要な表現ともされる

▼言葉が本来の意味から離れて使われる例に森友学園への国有地売却問題で話題になった「そんたく」がある。「他人の心中を推し量る、推察」(同)だが、権力者などに「配慮する」という趣旨に捉えた方が実態に近くなった。日本人は物事をあいまいにするための言葉の使い方が得意だ

▼障害者雇用率の水増し問題では厚生労働省の通達にある「原則として」を多くの省庁は「必ずしも守らなくてもいいこと」と解釈した。日韓政府が徴用工問題は解決済みとする根拠である「日韓請求権協定」も、事実上の「戦後賠償」とされるが、「事実上」もその一つだろう。国交正常化のための協定で、不当に権利を侵害された個人の賠償請求権まで効力は及ばないと韓国最高裁に指摘されれば、反論に苦しむことになろう

▼中国との国交正常化や平和友好条約の交渉で周恩来首相や鄧小平副首相が「尖閣諸島棚上げ発言」をしたのは知られている。先送りしただけだから両氏が外交の表舞台から去った後、緊張は高まった

▼韓国との間でも「アジア平和基金」「和解・癒やし財団」がある。あいまいさの残る決着を解決済みのごとく放置してしまうのは、日本だけの特質かもしれない。