伊勢新聞

2018年10月26日(金)

▼スペイン・バレンシア州との姉妹提携の共同宣言を終えて平成4年5月、県訪問団が首都マドリードの宿泊先を出発すると周囲の焼け焦げた臭いがバスの中まで漂ってきた。武力で独立しようという民族組織「バスク祖国と自由」(ETA)の活動が活発で、この日も交番爆破事件があったという話だった

▼バスクのスペイン政府離脱・独立の運動も古い。ベレー帽で知られ、日本なら絵筆かパイプが似合うが、他民族にねじふせられてきた歴史が自主独立の気風を鍛え、自治州の中でも最も自治権を認められているとされるが、バルセロナ次第で再燃は必至だ

▼ノアの方舟の一団が祖先という伝説がある。ヨーロッパ最古の民族で、周辺のどの民族とも言語系統、文化が異なるなぞの民族とも言われる。ETAも武装解除し、バレンシア州との友好交流が10周年を機に停滞している現状ではタイミングもいい

▼もともとスペインとの友好交流は、志摩地域の民間有志が任意の友好協会を設立し、スペイン大使館の肩入れに驚いた国の県への問い合わせから始まった。提携したバレンシア州とはそれまで何のつながりもない。バルセロナ五輪やセルビア万博でスペインブームが巻き起こったうちはともかく、継続には無理があったのかもしれない

▼州首相に会うのに王朝時代の天子との拝謁を思わせたり、調印式直前まで音信不通になったり。先方からの提案という覚書締結とは大違いだ。日本とは国民性も似ていると言われる。かつて県州ともに幹部は男性ばかりだったが、覚書に署名する女性大臣の姿にも隔世の感がある。