▼奇妙な経過をたどるものだ。月刊雑誌「新潮45」10月号で「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」の特集を組んで同じ新潮社内の文芸部門から批判されたばかりか、同社社長が「あまりに常識を逸脱した偏見と認識不足に満ちた表現」と、異例のコメントを出し、その4日後に雑誌の休刊を発表した
▼今度は「あまりに(中略)認識不足に満ちた表現」に続けて、そんな論文を掲載してしまい「このような事態を招いたことについてお詫び致します」と謝罪している。論文は外部筆者の7本を指すのだろうから、編集部に頼まれて、その意図に沿って書いた筆者は、ものの見事にはしごを外されたことになる
▼「ここ数年、部数低迷に直面し、試行錯誤の過程において編集上の無理が生じ、企画の厳密な吟味や十分な原稿チェックがおろそかになっていた」結果の失態とも言っている。敗軍の将兵を語るの図。見苦しくもある
▼健康雑誌だった同誌をノンフィクション雑誌に変えたのは同社の伝説的編集者斎藤十一だそうだから伝説の写真週刊誌「FOCUS(フォーカス)」創刊者と同じ。田中角栄の法廷写真の隠し撮りを掲載するなどして人気沸騰したが、20年で休刊になった
▼おきて破りの田中角栄写真は喝采を浴びたが、後年の神戸連続児童殺傷事件での未成年者の顔写真掲載などは嫌悪感をもって迎えられた。「新潮45」の性的少数者偏見への擁護はフォーカス同様、移り気な世間の動向を見誤った
▼「人殺しの顔を見たくないか」の伝説の編集者の遺訓はTPOをわきまえてこそ。不肖の後輩らではある。