伊勢新聞

2018年9月17日(月)

▼カロリー摂取、60代が最多―の見出しにひかれて厚生労働省の平成29年国民健康・栄養調査の記事を読んだ。「定年退職し、食事や運動に時間を使う60代が相対的に高くなった可能性がある」と同省担当者

▼ゆとりのある老後を楽しむ人生が浮んでくる。三大栄養素摂取量が計算の根拠だが、タンパク質だけでも60代が最多で、年齢があがるほど魚介類の割合が高くなっているという。健康志向も、強くなっているということか

▼もっとも、20年前に比べると摂取カロリーは減っている。50代以下の減少幅が大きいので相対的に最多に浮上したことが「食事や運動に時間を使う」ためと言えるのかどうか。60代以上では男性より女性の方が減り方が多いというのも「定年退職し」という説明が怪しくなる

▼65歳以上の生活習慣と健康状態の関係では、男性の一割強、女性の二割が「低栄養傾向」で、外出しないことに原因があるらしい。食事や運動に時間を使う層とは縁遠い一団が存在している。物価上昇率二割は政府の果てしない目標だが、携帯電話などは値下げされても、食品価格が安定しているというわけではない。野菜は高騰しているし、ファーストフード店など外食産業の値上げニュースも相次ぐ

▼ガソリン価格も上昇し、社会保障関係の負担もじわじわ生活を圧迫している。人生百年時代を迎えて、食べたいものを何のためらいもなく食べられる環境でもあるまい。そんな想像力を巡らしたかどうか。相対的最多を「豊かな老後」に結びつける認識がわが国の「敬老」の側面を物語っている。