伊勢新聞

2018年9月13日(木)

▼松阪署が、2歳の我が子を離婚協議中の夫の家から連れ去ったペルー国籍の45歳の女性を、未成年者略取の疑いで逮捕した。母親を同容疑で逮捕したのは初めてではないか

▼父親が拉致した場合に逮捕されたケースはいくつか耳にする。国外連れ去りや未成年者略取罪で、いずれも外国人だった。日本人に適用されることはまずなかった。略取は「暴力を用いて連れ去ること」。母親には当てはまらないのだ

▼離婚協議中という事情が、事態を複雑にしている。親権が確定していないということだろう。日本の場合、親権を持たない親の権利はほとんど認められない。権利者が2人いることは、子どもの成長に好ましくないとされるからだが、子どもの権利条約は2人の親に接触する権利を子どもに保障している。最高裁の判断との矛盾は今も解決していない

▼また、親権者はかつては父親、最近は特別な事情がない限り母親の傾向。ただし「特別な事情」に外国人が入る可能性はある。国際結婚が破たんした後、日本女性が子どもを連れて帰国し拉致、誘拐だとする外国の申し入れで、児童引き渡しを決めたハーグ条約が締結された。が、子どもを誘拐したと外国裁判所に判断された日本女性に警察が略取や誘拐罪を適用したことはない

▼ペルー国籍の母親は住居・職業不詳で、名古屋市路上で発見されたと発表された。外国で離婚に直面し、子どもと切り離され途方に暮れる姿が想像されるが、そんな母に親権が与えられることはあるまい。子どもの幸せのため。松阪署も国際問題にならないことは織り込み済みだろう。