三重県の熊野市観光協会は、今月17日に開かれた熊野大花火大会の期間中、市民の住宅の空き部屋を観光客らに有料で提供する「イベント民泊」を県内で初めて実施した。16―18日の期間中、自宅提供者は10人、宿泊者数は延べ64人だった。これまでにイベント民泊を実施した自治体は徳島、青森の各県などで、全国でも例が少ない。協会の中平孝之会長(71)は「民泊を通してホストとゲストのつながりができた。田舎の良さを理解してもらい、他の時期にも熊野に来てもらえる良い機会となったのではないか」と民泊の効果を期待する。
観光庁のガイドラインによると、イベント民泊は、大勢の集客が見込まれる年数回のイベント開催時に、宿泊施設の不足が見込まれる際、開催地の自治体の要請に基づいて自宅を提供する場合、旅館業法に基づく営業許可を受けずに宿泊サービスを提供できる。ただ、衛生面を整える▽食事を提供しない▽火災報知器を設置する―などの要件を満たす必要がある。
熊野大花火大会は300年以上の伝統があり、毎年10万人以上の観光客が訪れる同市最大のイベントだ。今年は金曜夜の開催ということもあって、県内外から昨年より約5万人多い17万人が訪れた。
協会によると、ホテルや旅館などの宿泊施設は花火大会の数カ月前から満員で、宿不足を解消するため、イベント民泊を実施。事前の説明会を開き市民に住宅の提供を呼び掛けた。
住宅を民泊仲介サイト「スペースマーケット」(東京都)に登録して宿泊希望者を募った。価格は3千―1万円。県内をはじめ東京や大阪府、神奈川県などから1歳―80代の家族連れや夫婦が利用した。
住宅提供した奥田哲也さん(47)は、大阪府の2家族6人を受け入れた。奥田さんは同市木本町にある自宅の古民家の空き部屋を提供。7月から床を塗り直したり火災報知器を付けたりして準備してきた。
家族3人で宿泊した会社員斉藤太嘉志さん(53)=同府柏原市=は以前、熊野市の大花火大会に友人と車で訪れたことがあった。大会終了後、友人と交代で運転し、大阪に到着したのは午前6時ごろだったという。その時の経験から「家族と訪れるとなると日帰りは無理」と判断。協会のホームページでイベント民泊を見つけ、利用者登録をした。
斉藤さんは「海水浴にも行けたし、鬼ケ城に立ち寄って帰る。(民泊は)地元の方と交流できて細かな情報を教えてもらえるのでうれしい。満足です」と話した。
奥田さんは「初めての経験だったがトラブルもなくてよかった」と感想。来年以降、民泊を営む予定で開業準備を進めている。
協会によると、民泊終了後に実施したアンケートでは利用客64人中、約60%の39人から回答があり、うち9割が「また利用したい」と答えたという。
説明会開催などイベント民泊の運営にあたった協会の担当者で地域おこし協力隊の井上結子さん(35)は「準備期間が短かったが自宅提供者の人数も当初考えていた5人より多く、協力的だった」と述べた。
中平会長は「今後はアパートの空き部屋なども有効活用し、多くの方が泊まれるようにしていきたい」と話した。