伊勢新聞

2018年8月1日(水)

▼マッチポンプとは、自らマッチで火をつけて、自らポンプで水を掛けて消す意味。委員長や理事を務めた衆院決算委員会を舞台に表向き政財界の癒着を追及しながら裏で金で手を打つ田中彰治事件で一般化したといわれる

▼ロッキード事件で田中角栄首相の盟友として国会に招致され「記憶にございません」を連発して「政商」の名をほしいままにした小佐野賢治が国有地払い下げ問題でまんまと借金を踏み倒されている。上には上がある

▼諫早湾干拓訴訟で福岡高等裁判所は8年前に下した確定判決を事実上無効にする判決を言い渡した。マッチポンプという言葉がすぐ思い浮かんだのは、堤防排水門開門判決と長崎地裁の「開けてはならない」の仮処分決定が並立する形となっていたからだ

▼時の菅直人首相が野党時代の開門請求と「無駄な公共事業」批判を実現するため福岡高裁判決の上告を断念。国営事業として進めてきた国策と矛盾する判決を確定させた。混迷を決定的にしたところでの、今回の前判決を取り消しの判決である

▼前判決後に事情が変わったとする国の取り消し請求を丸ごと認めた格好だが、理由は漁業権が消滅しているので漁業者が開門を請求する立場にはない、という意表を突く論法。更新した現漁業権は当時の漁業権ではないというのだ。国が取り消し理由にあげた漁獲量回復などについては一切判断していない。法廷で争点になっていないことに、判決を下したということになる

▼国の請求を認めるためというよりは、前判決を取り消すためだけの理屈。マッチポンプだというゆえんである。