伊勢新聞

2018年7月5日(木)

▼育児休業延長のため、高い倍率の保育所へ「落選狙い」で申し込む例が広がっているという。失業保険(昭和49年まで、現雇用保険)受給狙いで職安が紹介する企業をわざと不採用になる例が話題になったことがある。人の思いは、今も昔も変わらない

▼仏文学者で評論家の加藤恭子さんに昭和28年の米国留学体験をつづったエッセーがある。生計と2年目の学費をアルバイトで稼ぐ「ひどい」計画で、最も充てにした夏休みに本当の危機がきた。職がない上、学生は採用してくれない。短期間労働者はいらないのだ

▼苦しむ日本人留学生を見て、イランの学生が笑ったそうだ。「バカだな。移民労働者だと言って働き、3カ月でやめればいいのに」。彼らが職を見つけていくのを横目に、日本人学生は誰一人ウソが言えなかった。「敗戦国からとはいえ、武士道にもとることはできないのだ」

▼サッカーW杯の決勝トーナメントで日本代表は優勝候補ベルギーをあと一歩のところまで追い詰めた。世界は目を見張り日本中が感動した。ライバルの敗退狙いでボールを回し続けたことなどもはや誰も言わない

▼ルールの範囲内で駆け引きがあるのがスポーツである。あくまで一本勝ちを最善とする日本柔道などは、武士道精神を残す希少スポーツだろう。サッカー特有のルール、オフサイドはずるい戦法を嫌って生まれたというが、そんな騎士道精神は日本人には関係ないご時世でもあろう

▼日本サッカーの新たな躍進の始まりになるとも言われる。ノドに刺さった小骨など大メシですぐ飲み下してしまうに違いない。