伊勢新聞

<まる見えリポート>介護職員の人手不足 嘆く業界、入居者抑制も

介護職員が足りない―。三重県内の雇用情勢が好調な中、介護職員の求人倍率(求職者1人に対する求人数)は3倍以上で突出している。業界関係者は「リーマン・ショックのあった10年ほど前は募集をかければすぐ集まったのに、今は募集をかけても来てもらえない」と嘆く。必要な介護職員が集まらずに定員数を抑えて運営する施設も出ている中、今後も人手不足が続く見通しで、有効な打開策が見えてこない。

伊勢市宇治浦田の特別養護老人ホーム「賀集楽(かしゅうらく)」は入居定員40人だが、5月1日の開所時は10人ほどでスタート。必要な介護職員が確保できなかったからだ。開所以降、採用を続けているが、現在受け入れられているのは14人と定員の半分にも満たない。

入居型老人ホームの賀集楽は、24時間365日、介護職員は交代で勤務。6月15日現在の職員はフルタイムが16人、パートタイムが6人の計22人。円滑な運営にはフルタイムで働く人があと4―5人、パートタイムは2人ほど必要という。

介護職員の人材不足は他業種より深刻だ。4月の県内全体の有効求人倍率は1・73倍だったのに対し、介護職は3・74倍だった。県内の主要産業である製造業の生産工程職(1・63倍)の2倍以上で、介護職の求人の多さは飛び抜けている。

介護人材の需要は団塊の世代が75歳以上の後期高齢者に達する平成37年にピークを迎える。厚生労働省が5月に示した第7期介護保険事業計画によると、平成28年度の県内の介護職員数(実績)は2万7444人。32年度には3万2513人必要と試算されるが、確保できる人材は3万876人にとどまる見通し。37年度はさらに需要と供給の差が広がる。

需要が増える中、学生の志望者は落ち込みつつある。福祉系専門学校の定員充足率は4割を切るところもあり「定員いっぱいに学生が集まるのは珍しい」(介護業界関係者)。28年度の高卒就職者4162人のうち、介護関係へ就職したのは164人だった。

県は「若い人が参入しなければ職員の高齢化が進む」と警鐘を鳴らすが、県内の有効求人倍率はバブル後期並みの高水準で、労働者はより良い条件の仕事に流れやすい。業界関係者は「新卒採用は諦めている。今は職員に辞められないことが大事」とした。

県内の南北格差は介護人材の充足にも表われている。県南部は過疎化が進み、人口に占める高齢者の割合が大きくなる一方で、働き手となる若年層が減少。南部の施設関係者は「介護職の就職フェアで南部地域にある施設のブースを訪れる人はまばら」と語る。

県などは介護人材が集まらない主な理由として、賃金の低さや重労働など介護職のマイナスイメージを指摘する。国の試算によると、平成28年度の常勤介護職員全体の平均月収は約29万円。基本給の平均は約18万円で、他職種と比べて少ないという。

その一方で、「重労働」と見られてきた介護職でもICT(情報通信技術)やロボットなど最新技術の導入が進む。賀集楽では、夜勤の負担を減らそうと、利用者のベッドにセンサーを設置。パソコンで室内にいる入居者の就寝状況が把握できるようになっている。

県は介護業界の働きやすさを社会的に評価する仕組みを作ろうと、職場環境の改善に取り組む介護老人福祉施設を応援する制度を本年度から導入する予定だ。ただ、介護の現場は現在進行形で職員が足りない状況。働き方改革以外の施策も求められている。