伊勢新聞

2018年6月3日(日)

▼「則さん(佐々木則夫監督)は勝負を決めるのはサブなんだぞと言ってくれるのでモチベーションは下がらない」と言っていたのはW杯優勝した当時のサッカー女子日本代表「なでしこジャパン」の丸山桂里奈選手だ。途中出場したドイツ戦での決勝点はしびれた▼男子代表のことを書こうとしてこんな話を持ち出すのだからJリーグにはほとんど関心がない。「なでしこ」ファンもW杯優勝からでいわばミーハー。門外漢同然を自認した上でだが、W杯ロシア大会の代表選手決定はめだかの学校のようだな、という気がしたのである▼理由はむろん、浅野拓磨選手の落選である。大試合に強く、ここぞという時に出場して得点をもぎ取る。度胸のよさは日本の選手の中で出色。勝負を決めることができる数少ない絶品のサブを切り捨てたのは、調和を重んじる事なかれ主義、誰が生徒か先生かわからぬめだかの学校が思い浮かんだということである▼選手との「溝」「信頼関係の喪失」を理由に監督を電撃解任したこともある。監督と選手との対立はプロ野球でもよく耳にしたが、監督を解任したという話は聞かない。そんなことをしたら監督は勝負より選手の機嫌を優先し、選手は監督を軽んじることになる。そんたくも、あうんの呼吸も日本の底流である▼かつての岡田武史監督のような思いきったチームづくりなどできまい。専門職より総合職重視が日本社会である。「水にながれてつーいつい、みんながそろってつーいつい」の方が、失敗した時の言い訳もしやすい。浅野選手ははじかれざるを得なかったのだろう。