三重県伊勢市船江1丁目の伊勢赤十字病院(楠田司院長)が訪問看護師の津波避難対策に乗り出した。従来から避難の必要性は認識していたが「院外でどう逃げたらいいか分からなかった」との声があり、愛知県立大看護学部の清水宣明教授(危機管理学)に専用の津波避難マップと対応ガイドの作成を依頼。災害時、看護師は浸水区域からの脱出にこだわらず、2階建以上の建物に逃げ込むことを基本方針に据えた。清水教授によると、訪問看護専用の津波避難マップの導入は東海初で、全国的にも先駆的な取り組みという。
マップは伊勢日赤の訪問看護が担当する地域に合わせて想定。津波到達前に浸水圏外への脱出が困難な地域を黄色で表示しているほか、主要な避難道路を太線で示し、「緊急退避建物」として医療・介護施設、公民館や津波避難タワーなどの公共施設、学校、民間の大きな建物の位置などを明記している。御薗エリア、豊北エリアなど、7つの区域ごとの詳細図も作った。
対応ガイドには避難方針を盛り込み「絶対に地上で津波にのまれてはいけない」とし、浸水区域からの脱出にこだわるよりも近くの建物へ避難すべきことを強調。「まず命を守り、次いで病院に戻るべき」としている。
先月16日には伊勢日赤で、清水教授が訪問看護師らに津波避難マップと対応ガイドの使い方を説明。市の地形的特徴として堤防と土地が低く、河口部が広いことを挙げ「過去に(内陸の)伊勢神宮外宮の手前まで津波が来たことがある。市街地の広い範囲が水没する危険性があることをまず理解してほしい」と呼び掛けた。
その上で「市街地が水没しても建物の中にいれば助かる可能性は高い。津波避難は時間との戦い。浸水区域からの避難が困難な場合は無理せず近くの建物を目指すべき」と指導した。さらに、訪問先の患者宅周辺や移動途中に逃げ込める建物を普段から見付けておくよう促した。
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伊勢日赤によると、訪問看護ステーション(清水明美管理者)に在籍する看護師は八人。患者は伊勢市を中心に約80世帯になる。訪問看護師は日中の大半は院外におり、利用者の約60%の自宅が津波浸水想定区域にあるため、移動中を含めると津波の危険にさらされる時間が極めて長いという。
病院の防災対策を担当する青木悦子看護副部長は「訪問中に地震が起きた時の対応はずっと気にしていたが、逃げ方が分からず具体的な対策を取れなかった」と振り返る。そんな時、伊勢志摩で地域防災対策に取り組んでいた清水教授を知り、避難マップと対応集の作成を依頼した。
青木看護副部長は避難マップを見て「具体的にどう避難するか。その方向性が見えた気がする」と話す。例えば、対応ガイドの中で「非常に危険な避難路」として紹介される県道(八間道路)。「国道に続く大きな道で伊勢の人なら誰でも使う。『災害時も車が集中し、身動きが取れなくなる』と説明され、なるほどと思った」という。
病院側は患者宅を地図上に落とし込むなど、避難マップを順次改良していく。また、朝の打ち合わせで、患者宅周辺や行き道周辺の避難場所などを確認する。
青木副部長は「5分でも目を通すと違う。『作ってもらって良かった。安心』ではなく、自分たちで使いこなさねばならない」と話している。