伊勢新聞

2018年4月25日(水)

▼財務事務次官の発言を録音したテレビ朝日女性社員の行為を「ある意味犯罪」と言った下村博文元文部科学相が、謝罪して取り消す際に「オフレコの会話を隠し録音することは取材倫理違反だ」

▼政治倫理がどうかは知らぬが、「取材倫理」とはあいまいな表現だ。報道界にずばりその名の基準はない。「オフレコ」については新聞協会編集委員会の見解で、取材する側とされる側が相互に確認、納得することが成立の条件だ。2人の食事の場でそんな約束が交わされていたとでもいうのだろうか

▼メモが新聞記者必携の取材ツールとすれば、1本の原稿量が新聞の4―8倍の雑誌記者は録音機が必携だった。取材相手の前でメモを取り出すのは下の下と言われたが、録音機も同様。メモや録音機を見て平常心で話せる人は少ないからだ

▼短くした鉛筆でポケットの中でメモをとるという新聞記者がいたものだが、雑誌記者も〝隠し録音〟が常識。それが「取材倫理違反」であるかのように見られ出したのは、朝日新聞が平成17年、新党日本設立に絡み偽メモ事件を起こして「記者行動基準」を定め「録音するにあたっては相手の承諾を得る」と宣言したからだ

▼異を唱えにくいお題目ではあるが、NHK番組改編問題での月刊誌への情報流出などその後も朝日新聞の隠し録音が相次いだのはご愛きょうである。雑誌記者時代は新聞記者に原稿を頼んだ。今も構造は同じだろうが、だから取材で得た情報を報道目的以外に使ったともいえまい

▼よく知らぬことをもっともらしく話すのは政治家として少々軽率ではあるようだ。