伊勢新聞

<まる見えリポート>住宅宿泊事業法、6月施行 民泊運営、関心高く

【検索サイトに掲載されている三重県内の民泊】

一般住宅に有料で旅行客らを泊める「民泊」の事前届け出が開始から1カ月で8件あったことが三重県への取材で分かった。受理されれば住宅宿泊事業法(民泊新法)が施行される6月15日から営業が可能になる。県は「民泊をやってみたいという相談は毎日あり、関心は高い。6月に近づくにつれて増える可能性がある」とみているが、安全面の問題や住民とのトラブルも指摘されている。

民泊は、戸建て住宅やマンションなどの共同住宅の一部を旅行者に宿泊先として提供するサービス。空き室を貸したい人と旅行者をマッチングするインターネットの仲介サイトが生まれたことで世界各国に広まり、日本でも都市部や観光地を中心に展開されている。

仲介サイトの世界最大手「Airbnb(エアビーアンドビー)」で検索すると、県内でも伊勢市や鳥羽市など県南部の観光地を中心にアパートの一室や戸建て住宅の一部を旅行客に提供している。都市部に比べて件数は少ないが、徐々に広まりつつあるようだ。

国は民泊の基本的なルールを定めるため、民泊新法を昨年6月に成立させ、今年6月15日から施行。施行後は、届出事業者は年間180日を上限に民泊が営業できる。新法の成立を受け、県は独自の条例を制定し、民泊を営業できる地域や期間を制限した。

その上で、3月15日から民泊の事前届け出の受け付けを開始。県食品安全課によると、今月13日までに県内では8件の書類提出があり、民泊に関する問い合わせは65件あった。まだ受理には至っていないが、必要な書類がそろえば受理することになる。

民泊新法の成立に歓迎ムードなのは賃貸住宅事業者や不動産会社。訪日外国人観光客が増える中、新たなビジネスチャンスとして期待が高まる。大手コンビニエンスストアなどが民泊で使う鍵の保管ボックスやチェックイン拠点の設置に乗り出し、後押しする。

その一方で、宿泊業界からは反発もある。県旅館ホテル生活衛生同業組合の木村圭仁朗理事長は「既存の旅館やホテルが圧迫され、県南部は大変になる」と指摘。「対面だからこそ安心や安全も確保できていたが、民泊ではどうやって守るのか」と懸念する。

安全面以外にも、民泊を利用する宿泊者と住民との間でトラブルの発生が懸念される。都市部のマンションでは夜中の騒音やゴミ出しのマナー違反などトラブルが発生。家主が不在の場合、宿泊者への対応を他の住民がせざるを得なくなっている。

県マンション管理士会の橋本俊雄会長は「今のところ民泊のトラブルに関する問い合わせは1件だけ」としつつ「4―6月はマンション管理組合の総会が開かれる時期。総会で議題に挙げ、民泊を受け入れるかどうかの方針を議事録に残しておくべき」とした。

ただ、民泊が県内の観光産業に寄与していることも事実。民泊の利用で宿泊費を安く抑えた分、観光地で消費しようとする個人旅行者もいる。仲介サイトには県内の民泊先について「とても良いホストだった」「また宿泊したい」などと高評価するコメントもある。

さまざまな不安や反発が渦巻く中、スタートが近づく民泊営業。県食品安全課は「県内には民泊を営業しなくても十分宿泊施設がある」と認めつつ、民泊の利点について「宿泊者に多様な選択肢を与えられる」と説明。今後は事前届け出を受理される民泊事業者も出てくることが予想できる。観光客と地域住民が快適に過ごすために、民泊を始める人だけでなく周辺の居住者にも準備が必要となりそうだ。