地域部と人身安全対策課を新設した三重県警本部の組織改編から、この4月で1年が経過した。隣県の滋賀県警では今月11日、交番勤務の男性巡査(19)が上司を貸与された拳銃で射殺するという前代未聞の事件が発生し、あらためて若手警察官の育成にも注目が集まっている。発足1年を迎え、各所属の担当者に今後の展望や課題などを聞いた。
(県警・小林 哲也)
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地域部は、従来生活安全部内にあった地域課と通信指令課を分離統合し、約百人体制で新設された。全国都道府県警の中では23番目の事例。昨年4月現在で、三重県警と同規模の県警10県中三重を含む6県が同様の部署を発足させている。三重県警として部の新設は、昭和51年4月に刑事部防犯少年課と警備部外勤課、新設となった保守課の3課を併せた防犯部(現生活安全部)の発足以来41年ぶりとなった。
背景には、事案が複雑多様化する中で一つの所属が生活安全部門と地域部門という2部門を一元的に管理していくことが困難であること、また各警察署を含めると全警察官の約4割を占める地域警察官の執行力や初動体制強化、配属の中心となる若手警察官の育成強化を図る狙いがある。
地域課は、交番や駐在所勤務を含む現場の地域警察の体制づくりや運営に関する企画立案、各署への指導、雑踏警備や各執行隊ごとの警戒業務などを主な業務内容とする。同課には現在、自動車警ら隊、水上警察隊、鉄道警察隊、警察航空隊の4隊がある。
この4月には新たに山岳警備係も新設。昨今の登山ブームや、今夏開催予定の高校総体では登山競技が鈴鹿山系を舞台に開催される見込みであることを見越して、山岳警備隊を擁する9署と連携して専門的技術の修練や対応強化を図る。
通信指令課は「一一〇番」の管理と指令、各警察署への通信業務の指導などを主な業務内容としている。
通報を受理し、警察署やパトカーなどに指令を開始してから現場に警察官が到着するまでの平均時間を意味する「リスポンスタイム」は、平成29年中は6分41秒で、前年より33秒短縮された。
短縮の背景には、出動中のパトカー等の情報を把握する「カーロケ―タシステム」を28年3月に更新し、携帯可能なタブレット端末を各捜査車両に配備したことなどの効果も考えられるが、伊藤達彦地域部長は「組織一元化により細部に指導徹底を図れるようになった。今後も迅速な急行のために適正な指示を図りたい」と話す。
県内には現在、59カ所の交番と141カ所の駐在所が存在する。各交番や駐在所を拠点に、制服で地域を巡回する「お巡りさん」は、最も地域に近い存在とも言える。警察学校を出た若手警察官が配属されることも多く、地域の要望に応じ、事案に対応できる人材育成は喫緊の課題だ。
滋賀県警の射殺事件で逮捕された巡査も警察学校を出てこの3月に交番勤務を命じられたばかりだった。伊藤部長は「しっかりした若手警察官を育てることが県民の安全安心にもつながる。これまで以上に他部門と連携を図って地域警察強化に努めたい」と話した。
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人身安全対策課は、配偶者暴力などDV(ドメスティック・バイオレンス)事案やストーカー、家出人や行方不明者捜索、高齢者や障害者虐待など人身安全関連事案を扱う専門部署として、担当係を格上げする形で生活安全部内に発足した。現在課員は35人で、24時間の当直体制に加えて担当補佐による輪番制を敷き、各警察署と連携して事案に対応している。
昨年1年の相談受理件数は、DV742件(前年比38件増)▽ストーカー353件(同2件減)▽高齢者虐待67件(同28件減)▽傷害者虐待8件(前年比同)▽行方不明者1126件(同32件減)―だった。
DVやストーカーなど、被害者に及ぶ危険性が高く緊急性を要する場合には、行政処分だけでなく逮捕や摘発、被害者の一時保護などの必要性が生じる。昨年の摘発件数はDV83件(前年比27件増)、ストーカー40件(同9件増)で、緊急一時避難場所の提供は4件8人だった。
扱う事案の性質上、女性警察官の役割も大きい。課内には現在7人の女性警察官が配属されており、一つの班に最低1人は配置されている女性警察官が、被害者対応などに当たる。
交流サイト(SNS)の利用など、扱う事案は複雑化・広域化する傾向にある。沼田英雄同課次長は「各警察署の担当警察官の意識改革や捜査力向上が今後の課題。被害者の安全を最優先に迅速かつ的確に対応を図りたい」と話した。