伊勢新聞

2018年4月10日(火)

▼テレビ時代劇『鬼平犯科帳』で昔の恋人と夫婦となって長谷川平蔵の元を去り、一年後に夫を亡くして舞い戻った密偵おまさに、平蔵は「へっ、オレを捨てて行ったくせに」と言いながら帰参を許す平蔵の愛情におまさは感激する▼日本レスリング協会のパワハラ問題で、第三者委員会は「不用意な発言」として、離れた弟子への逆恨み、狭量の発露だとパワハラを認定した。合宿で再開した弟子に、女子強化委員長が「よく俺の前でレスリングできるな」といった発言に対してである▼時代の差か。平蔵が「冗談だ。好きにいたせ」と付け加えたからか。おまさと違い、弟子が強化委員長の怒りを感じたようだ。パワハラはセクハラと同様、発言や行為の事実関係に双方の違いはない。解釈で天と地ほどに分かれるのが問題の難しさである▼第三者委調査報告書で感じるのは、協会の人間模様である。かつてオリンピックで金メダルを量産して黄金時代を築いた男子が低迷し、代わって女子が台頭。その立役者が全体の強化本部長に選任されていく。複雑な視線が垣間見える▼その中で、男子との練習に活路を見る女子トップアスリートとそれを受け止めた男子コーチがアスリートファーストで突っ走る。ないがしろにされた女子コーチも含め、波紋を巻き起こしていく▼現場の体制は五輪後変わるが上層部は長年変更がないという指摘も、報告で態度を一変させた上層部を見るとうなずける。発端は練習中にけがをした選手の補償交渉をする弁護士の内閣府への告発という。協会の問題点を暴くというねらいなら大成功だ。