伊勢新聞

2018年4月6日(金)

▼桜にリクルートスーツはよく似合う。歩道に立ち止まり、少し歩いて元の場所に戻り、時計を見、天を見つめて何事か考えるそぶりの女性を目の端でとらえ、すれ違った。個性を消して控えめを演出するはずのスーツが、この時期異彩を放つ

▼気がかりなことがあるに違いない。落ち合う時間の確認か、帰社時間の調整か。入社式の翌日で、仕事としてもそれほどのものではなかろうが、本人にしてみればパニックを起こしかねない深刻な問題かもしれない

▼学生時代は新聞販売店に住み込んで苦学生と専業店員を都合に合わせて使い分けた。すれっからしの新入社員だったが、入社1日目に2時間遅刻し、上司に「おう、大物が来ましたよ」と部屋中に聞こえる声で言われたのにはいささかバツが悪かった。その日命じられた仕事で夜11時を過ぎたのに「じゃあ今日はこの辺で」と言われなかった

▼だからどうだということは、その後10年ほど勤めた中で思い当たらない。一流会社だったらどうだったかも、未経験で分からない。が、最近の新入社員には何の教訓にもならぬ話だろう。県庁の新規採用職員のように、ミスをしてはならないと緊張していたか

▼鈴木英敬知事は「新鮮な感覚で持った違和感を放置せず、自ら考えて行動を起こしてほしい」。「若さは武器。萎縮せず県政に生かして」とも。新人の代表は「幸福実感日本一の三重を実現できるよう責任ある行動を心掛けます」。「幸福実感日本一」が鈴木知事の最重点施策であることを知らずに出る言葉ではない

▼すでに違和感は放置し、萎縮済みの気がする。