伊勢新聞

2018年4月5日(木)

▼東京労働局長が記者会見で発言した「何なら皆さんの会社に行って、是正勧告してもいい」。何が問題なのかと思ったが、加藤勝信厚生労働相が「監督指導の任に当たる局長という立場の発言として甚だ不適切」。報道機関をけん制したというより、恣意的に監督指導がされていると受け取られることが問題ということか

▼野村不動産への特別指導を公表したのち、以前社員が過労死自殺をしていたことが発覚。関係を問う報道陣との間で「ノーコメント」を繰り返したあげく、発言は飛び出した。話題の裁量労働制が絡む話で、きな臭さは否めない

▼駆け出しのころだが、全国紙に国税庁の税務調査が入ったことがあった。低調な報道にやはり身内には気を遣うのかと共同通信の先輩に聞いたら、国税への取材の困難さとは別に「似たケースはどこにもある。おたくも一度調べてみましょうかと言われるんだ」。たちまち腰が引けてしまうらしい

▼酔うと検察官を口汚くののしり出すという検察担当の若手記者の話もある。権力が報道機関を脅す、けん制すること自体はそう珍しくはない。三年ほど前の三重労働基準局との懇親会で、日ごろ辛口の報道機関側幹事が「いまや労働者を守るのは労働基準監督官ぐらい。期待している」と言ったので、講釈ばかりで行動しないという認識が一新される思いだった

▼電通女性社員過労自殺事件以来、労働局の白馬の騎士ぶりはつとに高まった。東京労働局にも勧告、指導を受けている。出来星大名が名門に比べ力の行使にスマートさを欠き、身を滅ぼす例は歴史が証明している。