伊勢新聞

<まる見えリポート>名張市議会の自主解散決議案 同日選見送り「自己保身」

【同日選と定数減を見送った名張市議会=同市鴻之台1番町で】

三重県の名張市議会(定数20、欠員1)は3月定例会の本会議で、4月8日告示の市長選に合わせて市議選を実施するために自主解散する決議案を否決した。自主解散は選挙費用の削減などが目的だったが、一部の議員らが「時期尚早だ」などと反発。さらには定数削減条例改正案も提出されたが、賛成少数で否決した。有権者からは「議員の自己保身だ」と批判が上がり、議員からは「6月のボーナスを選挙資金にするための反対では」との指摘も。県内でも屈指の財政難に陥る市で、議会だけが「聖域」となっている。

同市では市長選を4月に実施している一方で、市議選は市長選から4カ月後の8月。昭和29年の市町村合併で現職議員が任期を全うする「在任特例」が適用されたことが理由というが、議会が市長選の直前で自主解散すれば市長選との同日選にできる。

同日選の議論が始まったのは、昨年10月に就任した福田博行議長が「長きにわたって有権者が求めていた」として提唱したのがきっかけ。自主解散は議長含む出席議員の5分の4の賛成が必要だが、当初は賛成の議員も多く「可決の可能性が高かった」(議員)。

福田議長らが自主解散を目指した目的の一つが選挙費用の軽減。市によると、市長選と市議選を別々に実施するよりも、同日選とした方が1400万円ほど安価になる。これに加え、議員報酬や政務活動費などで約1600万円の削減につながるのだという。

夏場の市議選を避ければ有権者の負担も少なく、低下する投票率の向上も期待された。市議選の当選を目指して市長選に出る「売名行為」を排除する狙いもあった。1月には、名張地区で区長を務める19人全員が、同日選を求める要望書を全議員に提出した。

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ところが、議長の要請を受けて審議した議会改革特別委員会の議論では賛否が分かれて紛糾。意見をまとめることができず、両論併記での最終報告となった。自主解散に反対の議員は次第に多くなり、3月9日の本会議では賛成12、反対7で否決された。

反対派は、急な解散は新人候補に不利で「時期尚早」と主張。「市長選に隠れて議員の主張が伝わりにくい」との意見もあった。ただ、賛成派が掲げた選挙費用の削減に対し、反対派は「報酬などを含めた総合的な検討が必要」とするぐらいで、説得力に乏しい。

これに対し、賛成派の議員は「反対派の意見は方便だ」と主張する声が多い。ある議員は「ボーナスが反対の理由だったのでは」と疑う。議員のボーナスは6月と12月に支払われるが、うち6月分を選挙活動の費用に当て込んでいる議員もいるのだという。

本会議では自主解散の議案を否決した後、細矢一宏議員(公明党)ら6人が、定数を2減の18とする条例改正案を動議で提出した。しかし、反対派は「ここで決めるのは拙速」などと主張。自主解散の議案よりも反対が増え、8対10の賛成少数で否決された。

「同日選は全ての有権者が望んでいると言ってもいいほどだった。当初は賛成していた議員らが約束を反故にした」と福田議長。「自主解散が否決されたとしても、議員定数の削減だけは実現すると思っていた。本当にショックだ」と悔しさをにじませる。

市は県内で1、2を争う財政難とされる。28年度からは固定資産税率に0・3%を上乗せする独自課税も導入している。ある有権者の男性は「議員は有権者のためにと訴えて選挙をするが、最後は自分のため。彼らに身を削る覚悟はない」と言い放った。