伊勢新聞

2018年3月18日(日)

▼「幾多の危険に遭遇した」(芥川竜之介「馬の脚」)「強い国は国難に遭遇して」(内村鑑三「デンマルク国の話」)「経験したことのない大事件に遭遇したのである」(太宰治「断崖の錯覚」)

▼遭遇=不意に出会うこと。偶然に巡り会うこと。偶然や思いがけない出会い、巡り会いでも、相手は生涯の伴侶などのロマンチックな対象でないのは、冒頭の使用例の通り。まさに巨大な円盤の出現に息をのむ映画『未知との遭遇』である

▼財務省の森友学園関連決裁文書改ざんについて、経済産業省職員経験を踏まえて鈴木英敬知事が「内容を変えるようなことに遭遇したことはなかった」。「こういうことがあるんだと大変に驚いている」と続けたが、驚がくの深さを物語る。同じ「行政への信頼を大きく損なう極めて重大な問題」の受け止め方でも、冷静に県民に陳謝した鳥羽港改修工事の公文書改ざんとは人ごとと身内のぐらいの違いがある

▼旧大蔵省解体の理由となったノーパンしゃぶしゃぶ事件とも言われる接待汚職事件など財務省の不祥事が多い。同事件から10年後の居酒屋タクシー事件では、タクシー運転手から現金やビールなどを受け取っていた17府省庁・機関の職員のうち、5年間で約200万円相当受け取った主計局職員など、財務省がもっとも多い処分者を出した

▼第一次安倍内閣のスタッフに入っていた鈴木知事が財務省の体質に、いまさら驚がくすることがあったかどうか。「遭遇したことはなかった」の言葉には一つ間違えば自分もという思いに、思わず背筋がぞくっとした印象が垣間見える。