伊勢新聞

2018年3月8日(木)

▼御浜町選果場で県産かんきつ類の検疫に立ち会った鈴木英敬知事が「県が条件緩和に向けて力を入れていることを分かってもらえたと思う」。輸出拡大をめざしてタイの検疫官に向けた言葉だが、同時に「生産者に対しても、県が緩和に向けて力を入れていることを分かってもらえたと思う」

▼JA三重南紀の組合員の直接交渉でタイへの輸出が始まったのが平成22年。出荷は11・5トン(28年)で国内トップだが、26年には約20トンだったのが他県で病気が発生して検疫条件が厳しくなり、障壁になってしまった

▼知事は、昨年11月のタイ訪問で副首相に緩和を要請し、今年2月にそのための二国間協議を農林水産相に提言。今回選果場を初めて視察した。短期間での矢継ぎ早の対策は、県の動きに対する生産者の不満でもあったのか

▼南紀みかんとの間には思い出したくもない過去が県農林水産部にはある。愛知県に出荷したみかんに入れたパンフレットに有害物質が含まれていると名古屋保健所から指摘され、同部は全品撤去を指示したのだ。その後の県環境部の情報で撤去はパンフだけと分かり、損害予想額が数億円からゼロになった。県行政指導の在り方を問われ、責任問題に発展するのを恐れた県は、特産品奨励名目で1億円の補助金を出し、なかったことにした

▼検疫条件に苦しむJA三重南紀が、手をこまねく県にまたかという思いがよみがえったか。農産物の輸出拡大を掲げる知事の持ち前の行動力のなせる技に違いなかろうが、地元の反応を気にする知事の言葉に、古い記憶がよみがえった