伊勢新聞

2018年3月4日(日)

▼幼児のころ生死に関わる病気をしたと長じてから聞いたが、父に負われて病院へと向かう背中の感触は覚えているのにどんな治療を受けたかの記憶はない。小学校低学年のころ、歯を抜かれたことは鮮明に覚えている

▼麻酔の注射の痛さとペンチのような器具で根こそぎ引っこ抜かれるかの感覚、痛みは昨日のことのように思い出す。歯科医に嫁いだ友人の姉が里帰りして「肉体労働で、何の保障もない」と愚痴るのを聞いて、ポパイのような腕でペンチを振るうご亭主を連想したものだ

▼頬が腫れ上がって痛みにうめき、涙を流しても市販の痛み止めで耐えた。周囲にそんな友人は少なくなかった。当然歯はボロボロで、我が子はそうはさせじと小児歯科に連れて行ったが、泣く子は必ずいて伝染する。腕がいいと評判の医院は、しかし泣く子を叱りつける医師で、おびえ泣きし、二度と行こうとしない

▼歯科治療で「要受診」と診断された小学生の半数、中学生の6割が受診していないことが、医師や歯科医らでつくる県保険医協会の小中学校へのアンケートで分かった。受診率は3年前の調査から微増しただけ。回答した116校のうち「経済的理由で受診できない児童や生徒がいる」と答えた小学校が12校(15・4%)、中学校が7校(18・4%)

▼「低い受診率の背景には家庭環境や経済格差などがある」と宮﨑智徳会長。もう一つ、親子二代にわたる歯科治療の恐ろしい記憶があるのではないか。「歯の健康が二極化している」とは鵜飼伸副会長。親の意思の強弱か。医師の二極化を反映しているということか。