▼現代俳句の旗手、金子兜太さんが亡くなり、悼む声が各地で起こっているのとは別に、一日前に死去したと誤報して記事全文を取り消した時事通信社は、その後の流れをどう見ているか
▼「事実関係の確認が不十分でした」が同社編集局長名のコメント。その通りに違いないが、時事通信社と言えば昔、ニュース提供側と報道側とで取り決めた発表期日以前に記事を流すフライングをしたことを思い出す。「各記者から送られてくる記事を本社で期日まで止めておく仕組みがなく、そのまま流れてしまった」というのが、記者の釈明だった
▼作家吉川英治の晩年、NHKの編集局内の予定原稿の籠の中に、無造作に死亡記事が入っていた。吉川の長男がNHK記者で、父の死亡予定記事をどんな思いで目にしていたかと、同僚の記者が書いていたのを読んだことがある
▼金子さんの予定記事を時事通信社が作成していたかどうかは知らないが、金子さんの周囲に情報提供者を確保しようとするのは報道機関の常。情報提供者の間違った一報で予定原稿が解禁となったか、それとも死去間近と聞いて記者が確認後配信の注釈付きで送った原稿がそのまま流れたか、ちょっと思いを巡らした
▼野呂昭彦前知事の父恭一氏の生前、誤って「故人」と書き、当時衆院議員だった昭彦氏の事務所へ謝りに行ったことがある。「驚いたが、新聞に故人と書かれると長生きすると言われるから」と受け入れてくれたのにはホッとした
▼時事通信の誤りはそうはいかないだろう。現役時代、死亡予定記事の執筆は何となく指示したくなかった。