伊勢新聞

2018年2月9日(金)

▼受領は倒るる所に土をつかめ―は平安時代のことわざ。現代なら「転んでもただで起きるな」。分かりやすくなったが、「受領」すなわち役人の貪欲さをあざ笑った趣旨は伝わっているかどうか。「転んでもただでは起きませんね。さすが」と言い、言われた方もにっこり、なんてことがそこここで見られはしないか

▼厚生労働省が医療機関に支払う診療報酬の改定内容を決めた。高齢者が住み慣れた地域で最期まで暮らせる仕組みづくりを掲げ、介護と連携して在宅医療や施設でのみとりを進めるという。一方で、ニーズに合わせた病床再編を促し、かかりつけ医の役割を強化するとも

▼在宅医療の進めは患者の希望に寄り添ってということか。みとる施設とは、老人福祉施設だろう。それによって病床再編を促すニーズとは、厚労省の、ということでもあろう。医療費抑制策である

▼リハビリ180日間の上限設定をした平成18年診療報酬改定で「死を宣告された」と緩和を陳情した患者48万人の署名を黙殺していた厚労省が、世論の後押しなどで認めることにしたそうだ。しかし、大多数の脳血管疾患を除く一部だけで、代わりに診療報酬逓減制を持ち込み、実施には面倒な計画書策定を義務づけた。「やれるものならやってみろといわんばかり」と言うのは署名活動をした免疫学者の多田富雄

▼報酬配分の全体が下がる中でかかりつけ医のアップが〝逓減制〟と同じとは言わないが、ニーズが高い慢性疾患を抱える人向けの病床への転換とは、どこにある病床か。転院難民をさらに加速することにならねば幸い。