75歳以上の認知機能検査を強化した改正道交法の施行(3月12日)から9カ月余りが経過した。改正以降、三重県内で検査を受けた高齢運転者は9月末現在、2万2245人で、うち「認知症のおそれ」がある第1分類に判定されたのは553人に上ることが県警の調べで分かった。うち170人が運転免許証を自主返納し、認知症と診断されて免許を取り消されたのは2人だった。
(県警・小林 哲也)
改正道交法では、75歳以上の高齢運転者を対象に、臨時認知機能検査と臨時高齢者講習を新設。信号無視や一時不停止など、認知機能低下時に起こしやすい違反行為があった場合には臨時認知機能検査が義務付けられ、運転に影響があると判断された場合は実車と個別指導計2時間の臨時講習を受ける必要がある。
認知機能検査を受けた対象者は、第1分類「認知症のおそれ」▽第2分類「認知機能低下のおそれ」▽第3分類「低下のおそれなし」―に分類される。
3年に1度の免許更新時の認知機能検査時か、前述の臨時検査時に「認知症のおそれ」があると判断された場合、医師による臨時適性検査の受診か、主治医の診断書提出を求められ、結果次第では強制的に免許取消しの対象となる。
県警交通企画課によると、改正道交法施行以降に認知機能検査を受けた対象者のうち、「認知症のおそれ」があると分類されたのは553人で、うち170人が免許証の自主返納を選択。29人が期限切れにより失効となった。再検査などで「低下のおそれなし」と確定したのは16人で、残りは医師の診断や検査結果を待っている。
過去には免許保有者に対する自主返納者の割合を示す返納率が全国ワースト1位だった三重県だが、今年の自主返納者数は10月末現在で5528人と、昨年1年間の1782人を大きく上回った。
今年11月末現在の県内人身事故件数は4976件(前年同期比521件減)で、うち高齢者が第一当事者となった事故は945件(同78件減)と減少している。返納者の増加との因果関係は明白ではないが、同課の担当者は「必ずしも自主返納しなければならないというわけではないが、年齢を重ねれば認知能力も落ちる。安全運転が難しいと感じたら自主返納への協力も必要となってくる」と話した。
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津市殿村のサービス付高齢者住宅「さくら」に住む元県職員の庄村芳樹さん(81)は、3月31日に免許証を自主返納した。
「次の更新まで1年2カ月。まだ運転できるという思いはあった」と庄村さん。しかし前回更新時から体力の衰えに不安を感じていたことに加えて昨年11月には突発性難聴を発症。妻やめいの勧めもあって、自主返納を決意した。
高齢者住宅に入居していることもあり、当初はそれほど不便には考えていなかった。だが買い物や行政手続きなどで外出する機会を重ねていくうちに、少しずつ交通の不便さも感じるようになったという。
現在はタクシーやバスを使った移動にも慣れたという。「事故の心配をしなくていいというのは大きい。ただ、この車社会で車がないということは非常に不便。高齢者住宅ではなければより生活のコストがかかっていたと思う。高齢者が免許を持ち続けたいという気持ちは分かる」と話した。
県が自主返納者への特典サービスを紹介するために立ち上げた「運転免許証自主返納サポートみえ」には、11月末現在で31事業者が登録している。
三重交通(津市中央)は、路線バス利用時に運転経歴証明書を提示することで同伴者1人の運賃を半額としたほか、免許返納者を対象とした割引定期券「セーフティパス」を販売。サービス開始以降、1日平均200人前後が利用している。
またスーパーマーケットチェーン「ぎゅーとら」(伊勢市西豊浜町)は、移動型店舗「とくし丸」を使って伊勢志摩や松阪、明和など6地区を戸別訪問して日常品や食料品などを販売するサービスを実施。高齢者を中心に週2回の周回で百人前後の利用があるといい、同社商品部の伊藤雅夫さん(54)は「生きていくためにも食を届けるのは重要。移動手段の少ない地域を優先して回らせてもらいたい」と話していた。
サポートみえを担当する県環境生活部くらし・交通安全課の森本誠さん(40)は、「課題は食と医療。事業者にも働き掛け続けて充実を図り、より高齢者が自主返納しやすい環境にしていけたら」と話していた。