三重県伊賀市で土地の賃借を巡り、ある疑惑が浮上している。市が近鉄伊賀神戸駅の周辺でバスの待機スペースを確保するために借りている土地の賃料が「高すぎるのでは」と、一部の市議が批判が上がっているのだ。さらには、この土地は中岡久徳市議(69)の親族が役員を務める会社が所有していたことも発覚。市議らは「中岡氏が何らかの働きかけをしたのでは」と疑い、調査を進めている。過去には「行政に不当介入があった」として辞職勧告を受けた中岡氏。近頃は岡本栄市長への〝接近〟が目立つが、取材に「働きかけは一切ない」と否定している。長きにわたる「庁舎問題」と同じく、市長と議会の対立を生む新たな火種となりそうだ。
(海住真之)
この土地は伊賀市比土の近鉄伊賀神戸駅から約200メートルほど北にある。駅前からつながる二車線の真新しい道路に面した約3千平方メートルの平地。「ゆめぽりす伊賀立地企業連絡会管理用地」と書かれた看板がある程度で、特に大きな整備はされていないようだ。
市は今年1月から、この土地の賃借を開始。市内に進出している企業でつくる同連絡会から月1万円の「維持管理協力金」を徴収し、従業員を送迎するバスの転回スペースとして連絡会の企業に使わせている。駅前に停車するバスの混雑解消が目的という。
市議会が問題視するのは賃料の妥当性。賃料は月に36万2500円で契約期間は19年3カ月間。総額は約8300万円に上る。市議からは「高すぎるのでは」「朝に数台のバスが利用するだけで、これほど広大な土地が必要なのか」といった指摘がある。
市産業振興部の担当者は賃料の積算根拠について「平成23年に駅前の道路を整備した際に実施した鑑定の結果に基づき、適切な賃料を算出した」と説明。土地の広さについては「道路に面した土地だけを借りることはできなかった」と話す。
ただ、焦点は金額だけではない。関係者によると、この土地は中岡市議の妻が役員を務める会社が27年に購入し、中岡氏の長男が「業務執行社員」を務める市内の合同会社に売却された経緯がある。長男は市が賃貸借契約を結ぶ2カ月ほど前に退任している。
中谷一彦市議(公明党)の一般質問をきっかけに問題が浮上。その後の総務常任委員会は4回にわたって市の担当者から契約の経緯や中岡氏との関係を聴取した。「答弁に納得できない」として地方自治法に基づく「百条委員会」の設置を求める声も上がっている。
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渦中の中岡氏を巡る話題は豊富だ。同氏は8期目のベテラン市議。19年には行政への不当介入と民間に対する営業妨害の疑惑で、議長から辞職勧告を受けた。23年にも副組合長を務めていた森林組合の出張旅費が「突出している」と県に指摘された問題を巡り、議長名で厳重注意処分を受けた。
一方で「大物政治家」の一面も併せ持つ。高市早苗前総務相をはじめ、名だたる政治家らと親交が深い。「省庁の幹部らと携帯電話で連絡が取れる関係」(市職員)とも。「普通なら門前払いされる国への予算要望が通る」と、中岡氏を頼る市職員も多い。
元来、自民党所属だが、自民系候補を破って当選した岡本市長への〝接近〟も目立つ。自民系議員を中心に反発が続いている庁舎問題でも、採決では市に賛成の立場を取る。ある市議は「川上ダムに関連する国への要望でも市長に同行していた」と明かす。
こうした流れで市議らは中岡氏と市のつながりに疑念を抱いているようだ。一方の中岡氏は取材に「働きかけは一切ない」と否定。「市から土地の相談を受けたことはあるが、契約には関わっていない。長男が役員を退いたのも全く別の理由だ」と説明した。
岡本市長も「中岡氏から働きかけを受けたことはない」と否定した上で「駅周辺で他に利用できる土地はなかった」と説明。「転回スペースの確保は、かねて市内に進出している企業から要望を受けていた。企業誘致に必要な施策だ」と話している。