2017年11月16日(木)

▼心技体が重視される武道の中で心を最も重視しているのは剣道ではないか。反撃を瞬時に返す身構えの「残心」ができていなければ技が決まっても有効にならない。全日本剣道選手権大会の決勝戦後、礼をした二人が小さくうなずき合いアイコンタクトをかわしていた

▼防具を外して正座し礼をする戦いからの間の違いということもあろうが、国際大会では試合後手をにぎり合う柔道も、国内ではほとんど見かけない。喜びを全身で表したり、柔道着の直しを審判から再三促されたりする。横綱がだめ押しの手を出しても〝流れ〟とされ、勝負後の礼は首をちょこんと曲げるだけ。最後の礼で心の重視度が相撲は一番低いと考えるのは、素人のほんの思いつきというものである

▼横綱審議委員会の横綱推薦の内規は第一項が今も昔も「品格、力量抜群であること」。第二に「二場所連続優勝」が加わって「力量」の目安が分かりやすくなり、「品格」は思考停止に追いやられていったのではないか

▼武術の礼法として小笠原流が武家社会に浸透したのは、戦国武士の荒々しさを直したい各大名の意図があったといわれる。相撲界が勝負後の礼法に最も雑なのは、暴力沙汰がなくならない理由として分からぬでもない

▼横綱審議委員会委員長を務めた独文学者、故高橋義孝が「上限と下限」という随筆を書いている。横綱に推挙されるのは「品格」の下限で、そこから習得していくものだが、いつのまにか上限になったというのである

▼そう言ったのは60年前。今や相撲協会に浸透し、ひとり日馬富士だけの問題ではあるまい。